仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

恭頌新嬉

2010-01-03 14:32:19 | 生きる犬韜
暮れは、30日(水)までかかって1本の論文をまとめたものの、他の2本までは中途半端にしか手が回らなかった。これで、1月〆切のものも含め、3本のノルマをこなさねばならなくなった。うち2本は雑誌掲載で絶対に遅らせることはできないので、シンポ・卒論査読・授業準備の合間を縫うのはかなりきついが、とにかく頑張らねばならない。脱稿した論文は50枚程度の小編で、『書紀』や祝詞にみえる、ヒトが神霊を〈汝〉と呼ぶ形式の成り立ちを追ったもの。「汝」はナムチ・イマシなどと訓むが、原義からすれば尊敬の意味を含むはずが、実例はほとんどなく対等以下の対称として用いられる。すなわち、そうした使用法の定着は神観念の変化を背景とするはずで、「神々の没落」などと印象論的に語られてきた現象を具体的に論じうる題材なのだ。動物の精霊についても話が及んだので、トーテミズムの衰滅過程にも言及したかったのだが、収拾が付かなくなりそうで今回は止めにした。9日(土)のシンポジウムで、少し触れることにしよう。

31日(木)、年賀状を書きつつ自坊の大掃除を手伝い、例年どおり除夜会へ突入。不景気のせいか今年も参拝客は多く(つまり地元で年を越す人が増えている)、合計320発の鐘が打たれた(世の中、なんと煩悩に満ちていることか)。久しぶりに幼なじみのT君(保育園より)とF君(小学校より)もやって来て、昔話に花が咲いた(ほとんどサブカルの話だが)。お互いずいぶんとおじさんにになったものだが、会話の内容は中学生の頃とほとんど変わりがない(ありがたいというか、困ったものというか…)。
1日(金)は、四ツ谷の叔父の家(林光寺)で新年会。モモにはあろうことか、指導教授から年賀状で学位論文の公開審査日時(1/14)を知らされるというハプニングが。事前に日程の調整も何もなかったらしく大慌てであった。一体、首都大(旧都立大)の学位審査態勢はどうなっているのか。
2日(土)は朝から晩まで年賀状書き。年々増える。ぼくは宛名もコメントも手書きなので、200通を越えるとさすがに疲れる。
3日(日)からは、9日のシンポに使う資料の作成を始めた。原稿やら授業準備やら、とにかくもうとりかからないと間に合わない。授業は明後日からで、冬休みもだんだん短くなる。夏休みも春休みも同じことで、大学という場所から、研究をするための余裕が少しずつ失われてゆくのは辛い。研究ができなくなれば授業の質も落ちてゆくのが道理だが、当局や文科省は授業の向上ばかりを求めてくる。勢い、休養を犠牲にして身心を酷使せざるをえないわけだが、そんな状態から優れた成果が生まれてくるかどうかは疑問である(ま、余裕があったらあったで、怠けてしまうのが人間なのだけれども)。

さて、上の写真はアラン・ムーアの伝説的コミック『フロム・ヘル』。正月からなんだが、切り裂きジャックがテーマの作品である。ジョニー・デップ主演で映画にもなったが、やはり原作の方が数段内容が濃いようだ。日本の漫画に慣れた目にはこの画は厳しいかも知れないが、静謐なデッサンと淡々としたコマ割は、やがて映画をみているような陶酔を生じてゆく。多くの人が語るように、名作には違いない。しかし、いかにムーアがビッグ・ネームであろうと、作画者はあくまで挿し絵画家のように扱われ、原作者だけが強調される宣伝のあり方には疑問を感じる。両者がどのように連携してこの作品が生まれたのか、その過程にこそ注意を惹かれる。ちなみに、ぼくの海外コミック体験は、まずは1979年映画『エイリアン』のアメコミ版に衝撃を受け、『スターログ』誌に紹介されたフラゼッタやゴンザレスに感動したところから始まっている。その後バンド・デ・シネと出逢い、メビウスやビラルを読み漁った(いちばんのお気に入りは、Emmanuel Guibertの『BRUNE』。作画の精密さは恐ろしいほどだ)。どちらかというと、書き込まれた精密な画が好きなのかも知れない。

そうそう、3月に早大高等研究所で開かれるシンポ「近代学問の起源と編成」のポスターデザインが出来上がり、企画者の藤巻和宏さんからお送りいただいた。ぼくはご覧のとおり、異様にデカいタイトルで報告予定(つまり、まだ内容を詰められていないわけだ)。言語論的転回以降の歴史研究の現場を爆心地=グラウンド・ゼロと捉え、過去を扱うこと自体にどのような意味があるのか、言葉を介して過去にアクセスできるのかをあらためて考えてみたい。…が、さてどうなることか。
本年もよろしくご教導のほど、心よりお願い申し上げます。
Comments (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 音楽の力 | TOP | 折り返し点を過ぎる:「エコ... »
最新の画像もっと見る

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
5日からですか? (kari)
2010-01-04 12:22:31
こんにちは。
初めて投稿します。
ご本人とは、半年ほどのご無沙汰です。

大学は5日からってことですか?
早すぎですね。
他のところもそうなんでしょうか。
おそらく授業時間の確保に汲々としている大学の現状がありますね。

こちらもさすがにフィールドワークをする時間は厳しくなってきました。思いついても、すぐに机上の資料を揃える時間すら取れません(たとえば、役所の固定資産税課にこもって地籍図を筆写するなど)。
まさかそれで研究方針を変えるわけにもいかないので、どこかで抵抗しなくてはいけないのでしょうね。・・・さて、どうするか。
返信する
明日からです。 (ほうじょう)
2010-01-04 17:47:09
kariさん、ご無沙汰しております。昨夏もお世話になりました。

ご推察のとおり、授業は明日からです。すでに3日からシンポや授業の準備を始めていますが、あまり調子が出ずに困っています。
曽根さんとは26日にもお会いしましたが、そちらもお忙しいでしょうね。限られた時間のなかでちゃんとした研究を残さなければ、専任がなく喘いでいる仲間たちに申し訳がないので、精一杯やっているつもりですが…どんどん自分が疲弊してゆくのが分かります。

しかし、基本的には依頼は断らずに受け、授業はできるだけ毎年新しいものをかけ、教育・研究を有機的に繋いでゆく。そのスタンスを貫けるよう精進しています。
お互い頑張りましょう。
返信する

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Recent Entries | 生きる犬韜