く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「語られた自叙伝 遠山一行」

2016年02月13日 | BOOK

【遠山一行著・長谷川郁夫編、作品社発行】

 遠山一行(1922~2014)はクラシックを中心とする音楽評論の第一人者として長年健筆を振るった。一昨年12月の逝去から1年余り。本書は生い立ちを辿った聞き書きの「語られた自叙伝」と2002年以降に様々な媒体に寄稿した随筆の「未刊エッセイ」の2部で構成する。自叙伝の聞き書きは2009年に行われたもの。生前あまり触れられることのなかった私生活を回想しながら、最後は「最近の音楽、特に演奏が気に入らない」と苦言を呈しているのが印象的だ。

      

 遠山は日興証券(現SMBC日興証券)の創業者で初代会長の遠山元一の長男として生まれた。東大在学中の1943年には学徒出陣で入隊し、45年9月の復員まで内地で軍隊生活を送る。その後、フランス留学などを経て、日本近代音楽財団理事長、東京文化会館館長、桐朋学園大学学長などを務め、96年には文化功労者に選ばれた。

 また日本音楽コンクール委員長を務めるなど内外でのコンクールとの付き合いも長かった。ただ自叙伝でコンクールには「複雑な気持ちを持っていた」と告白し「これは一種の必要悪だと思う」と吐露している。「今の音楽界の技術偏重や演奏の画一化はコンクールに大いに関係がある」とも。文学の芥川賞のように審査員の間で議論がなく、点数だけで機械的に決まる状況に疑問を抱いていた。

 主として西洋音楽に携わった遠山は日本の音楽をどう見ていたのだろうか。エッセー『音楽深邃(しんすい)―音楽その合理性と幽邃なるもの』には、能の楽器演奏に強く魅かれるとし「これ程純粋な音楽はないだろう」と綴る。「つづみが打ち鳴らされる。笛が鳴りひびく。それは、西洋音楽の算術的なリズムや音程とはちがって、極めて自由で即興的な時間と空間の感覚に満ちている。そしてそれでいて厳密な秩序が支配する世界である」

 エッセー『八十歳の幸福』の中では再び「最近は、音楽会に行っても気に入らずに帰ることが多い……音楽の商品化の勢いのなかで、腕前を見せびらかすような演奏が氾濫しているので」とぼやく。だが続いて「本物の演奏家」に出会ったとして、バイオリニスト塩川悠子さんの名前を挙げる。「豊かな情熱にあふれた演奏はいまではほとんど聴くことのできない世界である」

 ノーベル賞受賞者でモーツァルトファンの小柴昌俊さんの半生を連載した日本経済新聞の「私の履歴書」(2003年2月)にこんなくだりがあった。「特に気に入っているのが遠山慶子さんの演奏……お祝い事があると遠山さんは友人のバイオリニストの塩川悠子さんといっしょに私のためにモーツァルトを演奏してくれる」。遠山慶子さんは遠山一行が渡仏時代に知り合って結婚した夫人で、国際的なピアニストでもある。


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