く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「東京裁判を批判したマッカーサー元帥の謎と真実」(吉本貞昭著、ハート出版発行)

2013年10月16日 | BOOK

【副題「GHQの検閲下で報じられた『東京裁判は誤り』の真相」】

 今年は極東国際軍事裁判(東京裁判)によってA級戦犯7人が処刑されてから65年目に当たる。東京裁判については戦後、様々な〝定説〟がまことしやかに語られてきた。「マッカーサーは再審査権(減刑権)という権限を行使せず戦犯を処刑にした」「占領期間中、マスコミによる東京裁判批判は全くできなかった」等々。著者は膨大な書籍や新聞を丹念に再検討したうえで、それらの定説の誤りを指摘した。

   

 著者吉本貞昭氏は1959年生まれで専門は中国研究。その傍ら、日本の開戦と終戦の原因、特攻の戦果、東京裁判などについて研究している。著書に「世界が語る大東亜戦争と東京裁判」「世界が語る神風特別攻撃隊」。終戦直後の1945年9月14日に割腹自決した陸軍大将、吉本貞一は親類に当たるという。

 本書は「『東京裁判は誤り』の謎と真実」「GHQの設置と言論検閲の実態」「マッカーサーの解任の内幕と『東京裁判は誤り』の謎と真実」の3部から成る。連合国軍最高司令官マッカーサーは1950年10月15日にトルーマン米大統領と会談した際、「東京裁判は誤りだった」という趣旨の告白をしたという。翌51年5月の米上院軍事外交委員会でその秘密文書が公表された。

 それを「東京裁判は失敗」と報じた北海道新聞の記事を偶然発見したのが、著者が東京裁判とマッカーサーの関係に強い関心を抱くきっかけになった。著者が国会図書館などで当時の新聞を調べた結果、全国54紙のうち約8割の43紙がマッカーサーの東京裁判への批判を報じていた。GHQの検閲があった時期になぜ「東京裁判は誤り」と報道できたのか。

 マッカーサーは回想記で「戦いに敗れた国の政治的指導者に犯罪の責任を問うという考え方は、私にはきわめて不愉快であった……。戦争犯罪の責任を問うなら、(宣戦布告がなかった)真珠湾攻撃に対する告発にとどめるべきだと思い、またそう進言した」と記した。判事の中にも少数意見ながらインド(当時英国領)のパール氏のように、国際法に規定されていない〝事後法〟によって戦争責任を一方的に敗戦国の指導者に押し付けべきでないとして全員無罪を主張した判事もいた。

 だがマッカーサーの米国政府への進言は聞き入れられなかった。こうした背景もあって、「占領当初から東京裁判の批判については、間接的な表現を行ったり、たとえ直接的な批判であっても検事側の主張も同時に行ったりすれば、GHQの検閲をパスできた」という。それは「マッカーサーはもとより、GHQの中にも多くの東京裁判の反対論者がいたからだと思われる」。

 判決と量刑の再審査権については、マッカーサーには「刑を承認あるいは軽減する権限が形式的に与えられているに過ぎなかった」。権限の制約によりA級戦犯を救えなかったマッカーサーは「彼らの名誉を護るために、死刑執行場面の写真撮影を拒否すると同時に、東京裁判を仕掛けた対日理事会の3人(オーストラリア、ソ連、中国の代表)を処刑に立ち会わせることで東京裁判に対する鬱憤を晴らそうとした」。

 マッカーサーは在任中、1度だけ「原審破棄再裁判」を命じた。それはBC級戦犯、加藤哲太郎元陸軍中尉(後に映画化された「私は貝になりたい」のモデル)に対する一審の死刑判決。再審で終身刑になり、さらに服役中30年に減刑された。著者はその背景について「BC級裁判が東京裁判や(マニラでの)本間(雅晴)や山下(奉文)両裁判のような政治的裁判ではなかったことが考えられる」とみる。こうしたことからマッカーサーについては「敗者をいたわる『騎士道の精神』を持った温情の厚い人物だった」と、これまでの負のイメージを否定する。

 本書では第1部で「天皇はなぜ不起訴になったのか」という1章を設け、その経緯も詳しく紹介している。天皇の訴追回避はマッカーサーの働きかけによるというのが従来の定説。事実、彼が本国政府に訴追しないよう進言したのは間違いない。だが、著者はここでも「マッカーサーの権限にはやはり制約があった」と指摘する。

 その権限は連合国の指導者たちにあり、米英中ソの四カ国の「天皇に対していかなる措置も講じない」という保留・棚上げ方針が続くまま外交交渉から立ち消えになり、やがて占領状態が終わって日本は主権を回復する。折しも国内では今年7月から昭和天皇の戦争責任を題材にした米国映画「終戦のエンペラー」が公開されている。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« <シオン(紫苑)> 薄紫色... | トップ | <ツリガネニンジン(釣鐘人... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿