く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<ノキシノブ(軒忍)> 樹幹や岩に着生するシダ植物

2022年06月06日 | 花の四季

【葉の裏には2列に並ぶ胞子嚢群】

 東アジアに広く分布するウラボシ科ノキシノブ属の常緑シダ植物。苔むした樹の幹や岩、石垣などに着生し、胞子を飛ばして増えていく。ノキシノブの名は観賞用の「つりしのぶ」などに使われるシノブ(シノブ科シノブ属)と同じ着生植物で、古い民家の軒先などでよく見られたことによる。葉は光沢のある濃い緑色で、長さが10~20cmほどの先が尖った線形。葉の裏側には主脈に沿って左右2列に丸い胞子嚢(のう)が整然と並ぶ。科名のウラボシも「裏星」で、胞子嚢群(ソーラス)を星に見立てた。学名は「Lepisorus thunbergianus(レピソルス・ツンベルギアヌス)」。

 強健な植物で、明るい半日陰の環境を好み乾燥にも強い。日照りが続くと、葉をストロー状に丸めて耐え忍び次の降雨をじっと待つ。ノキシノブには丸い胞子嚢を目玉にたとえた「八目蘭(やつめらん)」という別名がある。葉がいつまでもずっと常緑なことから「何時迄草(いつまでぐさ)」、松の幹によく着生しフウランに似ることから「松風蘭(まつふうらん)」といった異名も。俳句などではシノブとともに「忍草(しのぶぐさ)」として詠まれることも多い。葉を乾燥したノキシノブには止血・解熱・消炎・利尿作用があるとされ、漢方では「瓦韋(がい)」という生薬名で呼ばれている。

 万葉集に「わが屋戸は甍しだ草生ひたれど 恋忘れ草見るにいまだ生ひず」(巻11-2475)という作者不詳の歌がある。この中の「しだ草」の万葉仮名は「子太草」で、「しだ草」を詠んだ歌はこの1首だけ。それが何を指すかはっきりしないが、有力植物の一つがこのノキシノブ。大正末期刊行の『萬葉古今動植正名』(山本章夫著)は「羊歯植物の中から万葉歌に合致するものは『のきしのぶ』をさすを知る」と記す。ただ江戸後期の僧侶で万葉学者だった春登は『万葉集名物考』の中でウラジロ説を採っている。このほかシダ植物の総称として詠まれているのではないかという説もある。

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