【ラン科、別名「モジズリ」、園芸界では「小町蘭」とも】
ラン科ネジバナ属(スピランセス属)の多年草。日本のほか朝鮮半島、中国、インド、オーストラリアなどに広く分布する。ランといえば気品のある華やかな花姿を連想するが、このネジバナは日当たりのいい野原や芝生などに生え、草丈10~30cmほどでか細く目立たない。6~8月頃、螺旋状に捩(ねじ)れた花穂にピンク色の小花を横向きに多数付ける。属名「スピランセス」もギリシャ語で「螺旋状の花」を意味する。
全国でごく普通に目にすることができるだけに方言名も多種多様。「ネジリバナ」「ネジネジバナ」「ノコギリバナ」「ナワバナ」のほか「ヒダリマキ」「ヒダリネジ」などもある。ただ実際には捩れる方向は一定しない。左巻きや右巻きのほか捩れないものもあり、花色も濃淡に差があって、まれに白や緑のものもある。ネジバナは古くから「モジズリ(捩摺)」とも呼ばれてきた。江戸前期の園芸書『花壇地錦抄』(1695年)にもモジズリとして登場しており、ネジバナが当時から栽培されていたことが分かる。
モジズリの名前は花姿が東北地方で昔作られていた絹織物の「信夫(しのぶ)捩摺り」の模様に似ていることに由来する。この模様は小倉百人一首にも登場する。「みちのくのしのぶもぢ摺り誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」(河原左大臣=源融)。屋久島には草丈が10cm前後と小さい矮性種「ヤクシマモジズリ」が自生する。園芸界では斑(ふ)入り葉や花変わりなどが「小町蘭」と呼ばれ珍重されている。「ねぢれ花ねぢれ咲けるも天意かな」(山口いさを)