【辛味のあるヤナギタデに対し食用にならないから〝イヌ〟と】
全国各地の道端や畦道などでごく普通に見かけるタデ科イヌタデ属の1年草。花期は6月頃から晩秋までと長い。1~5cmほどの花穂に紅紫色の小さな花を多数付けるが、花弁のように見えるのは実は萼片。草丈は20~50cmで、まれに白花もある。
「アカマンマ」や「アカノマンマ」とも呼ばれる。子どもたちのままごと遊びで赤い粒々の花を赤飯に見立てた。昭和の初め、菊池寛、与謝野晶子ら著名人7人が1つずつ選んだ「新・秋の七草」の中に「赤まんま」も入っている。俳人高浜虚子がこれを挙げた。ちなみに他の七草はコスモス、葉鶏頭、彼岸花、菊、おしろい花、秋海棠だった。
「蓼食う虫も好き好き」。好き嫌いは人それぞれの意味で使われるこの諺のタデは、葉や茎にピリッとした辛味がある「ヤナギタデ」のこと。刺し身のツマやアユの塩焼き用の蓼酢など食用になることから「マタデ(真蓼)」や「ホンタデ(本蓼)」とも呼ばれる。万葉集に見える「吾が屋戸の穂蓼古幹(ふるから)摘みおぼし実になるまでに君をし待たむ」(作者不詳)の中の穂蓼も今日のヤナギタデのことだろうといわれる。
これに対しイヌタデは食用にならないため頭に「イヌ」と付けられた。同様に「イヌ」が付く植物は多い。イヌゴマ、イヌビワ、イヌホオズキ、イヌワラビ、イヌザンショウ……。いずれも「似て非なるもの」「役に立たない」という意味が込められている。ただイヌタデは全国各地で「アカマンマ」のほか「アカメシ」「オコワグサ」「セキハングサ」などの愛称で呼ばれ親しまれてきた。「露草や赤のまんまもなつかしき」(泉鏡花の辞世の句)。