く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<原節子逝去> 凛とした品格と美しさの中に芯の強さも

2015年11月26日 | メモ

【16歳で主演の「新しき土」から小津監督作品まで】

 伝説の大女優、原節子さんが2カ月以上前の9月5日に亡くなっていたことが分かった。享年95。出演した作品は1935年公開の「ためらふ勿れ若人よ」(田口哲監督)から62年の「忠臣蔵」(稲垣浩監督)まで計101本。そのうち観賞した作品はほんの一部にとどまるが、いずれも凛とした美しさと上品な語り口が印象的だった。(写真は㊧「東京物語」、㊨「安城家の舞踏会」)

 

 初主演作品は日独合作の「新しき土」(ドイツでの題名「サムライの娘」、アーノルド・ファンク監督)。役柄は留学先のドイツから帰国する日本人青年の許婚光子。父親役をハリウッドスターの早川雪洲が演じた。西洋文化に触れた青年は許婚(いいなずけ)という古い風習に反発し、船中で親しくなったドイツ人女性と共に日本の土を踏む。その2人の様子に衝撃を受けた光子は投身自殺を図ろうと花嫁衣装姿に裸足で、噴煙がもうもうと立ち昇る火山を登っていく――。シナリオの展開に荒っぽさがあるように感じたが、16歳原さんの演技は瑞々しく輝いていた。

 「わが青春に悔なし」は言論弾圧の京大事件をもとにした黒沢明監督の戦後初作品。大学教授の一人娘で男子学生の憧れの的だった幸枝役を好演した。「安城家の舞踏会」(吉村公三郎監督)は没落華族の物語。安城家の次女敦子役で、最後の思い出として舞踏会を開こうと提案する長女に「敦子、反対でございます」ときっぱり話す。穏やかな語り口の役柄が多かっただけに、決然とした口調が印象に残る。優しく父親に寄り添ってダンスを踊る最後のシーンも美しく、過去との決別への強い意志がにじんでいた。「山の音」(成瀬巳喜男監督)は川端康成原作の映画化作品。同居する義父母と浮気性の夫との間で翳りのある菊子役を見事に演じた。

 主演映画の中でもより評価が高いのは小津安二郎監督による作品群だろう。「晩春」「麦秋」「東京物語」「東京暮色」「秋日和」「小早川家の秋」の6本あるが、このうち「麦秋」を除く5本を以前DVDで見た。中でも印象に残ったのが「東京物語」。尾道に住む老夫婦(笠智衆と東山千栄子)が子どもたちを頼って東京を訪ねる。しかし長男長女は日々の生活に終われ両親をかまってやらない。そんな中、戦死した次男の嫁だけが2人を温かく出迎える――。原さんの役柄はその次男の嫁紀子だった。小津作品の中の原さんは役を演じるというより、ごく自然体でその人物になりきっていた。スクリーンから去って50年余。どんな後半生だったのだろうか。ご冥福をお祈りします。

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