また夢で終わるのかね。サッカーW杯16強突破ではなく、日本のデフレ脱出の話である。4月の家計調査は、それほど重苦しい結果だった。駆け込みの反動で消費が落ちたことを気にする必要はないが、今後の消費を占う実質「実収入」の季節調整済指数が前月から-3.6も低下したのは重症だ。低下幅は東日本大震災時の2011年3月と変わらないほど大きく、水準はこの時の97.0を大きく下回る94.7にまで落ちた。こんなに「実収入」が落ちてしまって、消費が反動減を取り戻せるのか、夢に酔えぬほど数字は厳しい。
(図1)
………
消費は収入次第というのは誰でも分かる理屈で、勤労者世帯の実収入と消費支出がパラレルに動いていることは一目瞭然だろう。2013年春には、雇用の底入れで消費が上ブレしたが、収入増が追いかけ、消費の反動減も出て、元の割合に概ね戻っている。つまり、消費増税の駆け込みと反動で消費の基調が見えない中で、収入の動向を見れば、消費の収まりどころの予想がつくことになる。その収入に、大震災に劣らぬショックを意図的に与えたのが、消費増税という政策である。
実収入の急落は、複合的な要因である。一つは、もちろん、増税による物価上昇での相対的な低下。二つは、おそらく、収入面でも駆け込みの反動があったこと。駆け込みで仕事が増せば、一時雇用や残業手当も多くなるが、その剥落である。三つは、駆け込みに隠される中で、円安に伴う物価上昇により、景気の基調が衰えていたこと。実は、2、3月も収入は名目、実質ともに低下していた。あとは、家計調査の収入は振れが大きいので、「たまたま」も含まれているかもしれない。それなら良いのだがね。
実収入が低下したために、消費性向は74.2%と、ちょっと怖い結果になった。この水準は、決して低くないからだ。3月の消費性向は駆け込みで85.1%にまで高まって、4月の反動減は必至だった。これで4月の消費性向が普段より低ければ、その回復による消費増が期待できる。ところが、74.2%という数字は普段のレベルなのである。つまり、消費がこのまま底をはうことすら考えられるのだ。
さすがに、筆者も、「そこまで酷くはならないだろう」、「少しは戻してくれるはずだ」と希望的な観測も持っているが、十分に不安を覚える数字だ。本コラムでは、秋以降の消費性向が高めに推移していることを指摘し、増税と消費性向低下の同時発生を警戒するよう訴えていたが、的中してしまった形である。消費性向が普段に戻るとすると、これまでの高めの推移は、秋からの物価高と早めの駆け込みの影響だったという解釈になる。
ここで、最新の消費動向を、内閣府の「消費税率引上げ後の消費動向等について」で確認しよう。増税は8週目になるが、家電は4月から全く改善しておらず、飲食料品は4月よりマイナス幅は縮小して-4.4%になったものの、戻りが緩慢になっている。なお、今日の日経では、新車の販売台数は前年同月比1%減にまで回復したようだが、軽自動車の増で補われているので、単価減になっているはずだ。
………
駆け込み需要に沸き、人手不足も言われる中で、家計調査の実収入の低迷ぶりは、不思議に思えるかもしれない。そこで、雇用統計もチェックしておこう。まず、労働力調査だが、第一生命研の新家さんも5/30に指摘しているように、就業者の季節調整値は-27万人と大き目の減が出ている。3月の増が帳消しなった形で、今年に入っての減少傾向が確認された。完全失業率も男性は上昇している。筆者には、大いに気になる数字だ。
次に、職業紹介状況の求人倍率だが、有効求人倍率(季節調整値)は、0.01ポイント上昇したものの、内容を見ると、求人が増えたわけではなく、求職が減った結果である。そして、景気の先行きを示す「新規」求人倍率(季節調整値)は、前月に続き、0.02ポイントの低下となった。こうして雇用統計を眺めると、水準は悪くないが、方向が下がり気味であることが分かる。すなわち、家計調査の収入の動きとも整合的であるのだ。
ついでに、景気の先行きを、鉱工業生産の資本財(除く輸送機械)の動きで確認しておこう。生産は、113.1と前月からはほぼ横ばいで、1-3月期の平均より2.3ポイントも低い水準だ。出荷は、前月より7.3ポイントも低下して、1-3月期の急増は一時的であったことをうかがわせる。在庫は、前月に大きく減ったものが普段の水準に戻り、駆け込み的な出荷だったように思われる。以上のような状況では、消費に代わり、設備投資が牽引してくれるとは、とても言えないだろう。
………
もし、消費増税を乗り越えられるとしたら、転嫁が進まないで、高収益の企業部門が税を被る場合かなと思っていたが、4月の消費者物価の結果からすると、増税の転嫁を上回る物価の上昇が起きており、その可能性は消えた。公務員給与の回復が消費を支えるという説もあったが、効果は見られない。春闘の賃金アップの浸透はこれからだが、実収入をここから盛り返すのは相当に厳しい。
それにもかかわらず、世間では、消費増税は「想定内」という声ばかりが目立つ。収入に着目して強い警戒感を持つのは、筆者のほかは、クレディ・スイスの白川浩道さんくらいだ。おそらく、増税で景気が悪くなるなんて、日本のエリートには在り得ないシナリオであり、これから、エルニーニョで冷夏になったり、中国の住宅バブルが弾けたりしたら、それらが原因とされるのだろう。民のカマドの数字ごときで、緊縮の思想は揺らがぬものかもしれない。
(昨日の日経)
NISA非課税枠拡大を検討。物価は増税分を超え上昇4月3.2%。生活必需品の値上げの夏。企業は手堅く在庫調整。5月増産6月減産。日本は増税乗り越え成長・IMF理事。5月の景況下げ・内閣府。4月の米個人消費1年ぶり減。ライフ・食品値下げ。コマツ・電力自立工場。広がる飼料米。
(今日の日経)
医療検査薬の市販を拡大。個人住民税を年1000円上げ。中国版MMF急拡大。新車販売5月1%減、軽が堅調。
(図1)
………
消費は収入次第というのは誰でも分かる理屈で、勤労者世帯の実収入と消費支出がパラレルに動いていることは一目瞭然だろう。2013年春には、雇用の底入れで消費が上ブレしたが、収入増が追いかけ、消費の反動減も出て、元の割合に概ね戻っている。つまり、消費増税の駆け込みと反動で消費の基調が見えない中で、収入の動向を見れば、消費の収まりどころの予想がつくことになる。その収入に、大震災に劣らぬショックを意図的に与えたのが、消費増税という政策である。
実収入の急落は、複合的な要因である。一つは、もちろん、増税による物価上昇での相対的な低下。二つは、おそらく、収入面でも駆け込みの反動があったこと。駆け込みで仕事が増せば、一時雇用や残業手当も多くなるが、その剥落である。三つは、駆け込みに隠される中で、円安に伴う物価上昇により、景気の基調が衰えていたこと。実は、2、3月も収入は名目、実質ともに低下していた。あとは、家計調査の収入は振れが大きいので、「たまたま」も含まれているかもしれない。それなら良いのだがね。
実収入が低下したために、消費性向は74.2%と、ちょっと怖い結果になった。この水準は、決して低くないからだ。3月の消費性向は駆け込みで85.1%にまで高まって、4月の反動減は必至だった。これで4月の消費性向が普段より低ければ、その回復による消費増が期待できる。ところが、74.2%という数字は普段のレベルなのである。つまり、消費がこのまま底をはうことすら考えられるのだ。
さすがに、筆者も、「そこまで酷くはならないだろう」、「少しは戻してくれるはずだ」と希望的な観測も持っているが、十分に不安を覚える数字だ。本コラムでは、秋以降の消費性向が高めに推移していることを指摘し、増税と消費性向低下の同時発生を警戒するよう訴えていたが、的中してしまった形である。消費性向が普段に戻るとすると、これまでの高めの推移は、秋からの物価高と早めの駆け込みの影響だったという解釈になる。
ここで、最新の消費動向を、内閣府の「消費税率引上げ後の消費動向等について」で確認しよう。増税は8週目になるが、家電は4月から全く改善しておらず、飲食料品は4月よりマイナス幅は縮小して-4.4%になったものの、戻りが緩慢になっている。なお、今日の日経では、新車の販売台数は前年同月比1%減にまで回復したようだが、軽自動車の増で補われているので、単価減になっているはずだ。
………
駆け込み需要に沸き、人手不足も言われる中で、家計調査の実収入の低迷ぶりは、不思議に思えるかもしれない。そこで、雇用統計もチェックしておこう。まず、労働力調査だが、第一生命研の新家さんも5/30に指摘しているように、就業者の季節調整値は-27万人と大き目の減が出ている。3月の増が帳消しなった形で、今年に入っての減少傾向が確認された。完全失業率も男性は上昇している。筆者には、大いに気になる数字だ。
次に、職業紹介状況の求人倍率だが、有効求人倍率(季節調整値)は、0.01ポイント上昇したものの、内容を見ると、求人が増えたわけではなく、求職が減った結果である。そして、景気の先行きを示す「新規」求人倍率(季節調整値)は、前月に続き、0.02ポイントの低下となった。こうして雇用統計を眺めると、水準は悪くないが、方向が下がり気味であることが分かる。すなわち、家計調査の収入の動きとも整合的であるのだ。
ついでに、景気の先行きを、鉱工業生産の資本財(除く輸送機械)の動きで確認しておこう。生産は、113.1と前月からはほぼ横ばいで、1-3月期の平均より2.3ポイントも低い水準だ。出荷は、前月より7.3ポイントも低下して、1-3月期の急増は一時的であったことをうかがわせる。在庫は、前月に大きく減ったものが普段の水準に戻り、駆け込み的な出荷だったように思われる。以上のような状況では、消費に代わり、設備投資が牽引してくれるとは、とても言えないだろう。
………
もし、消費増税を乗り越えられるとしたら、転嫁が進まないで、高収益の企業部門が税を被る場合かなと思っていたが、4月の消費者物価の結果からすると、増税の転嫁を上回る物価の上昇が起きており、その可能性は消えた。公務員給与の回復が消費を支えるという説もあったが、効果は見られない。春闘の賃金アップの浸透はこれからだが、実収入をここから盛り返すのは相当に厳しい。
それにもかかわらず、世間では、消費増税は「想定内」という声ばかりが目立つ。収入に着目して強い警戒感を持つのは、筆者のほかは、クレディ・スイスの白川浩道さんくらいだ。おそらく、増税で景気が悪くなるなんて、日本のエリートには在り得ないシナリオであり、これから、エルニーニョで冷夏になったり、中国の住宅バブルが弾けたりしたら、それらが原因とされるのだろう。民のカマドの数字ごときで、緊縮の思想は揺らがぬものかもしれない。
(昨日の日経)
NISA非課税枠拡大を検討。物価は増税分を超え上昇4月3.2%。生活必需品の値上げの夏。企業は手堅く在庫調整。5月増産6月減産。日本は増税乗り越え成長・IMF理事。5月の景況下げ・内閣府。4月の米個人消費1年ぶり減。ライフ・食品値下げ。コマツ・電力自立工場。広がる飼料米。
(今日の日経)
医療検査薬の市販を拡大。個人住民税を年1000円上げ。中国版MMF急拡大。新車販売5月1%減、軽が堅調。
デフレにおいて、個人として有効な努力は、自助努力が逆効果であることを指摘することくらいです。
デフレが性質が悪いのは、合成の誤謬が作用する典型であり、ミクロとして当然なコストダウン等の努力が、マクロとしてはデフレを悪化させることにあります。
心配事は、高級百貨店が売上高を減らしており、且つコンビニやファミリーレストランが売上高を逆に伸ばしていることです。
消費税は長期的には低資産主体の体力と長期的な貯蓄を使って消費する自動車や不動産に影響があるとアルプスさんと同様に思いますが、短期的には個人の考える贅沢品に影響が出ると思いますので、上の売上高の傾向は既に所得効果が出始めているのではないかと心配しています。この短期が積もって長期的な消費に影響するのではと、、
因み私の見方では、ファミリーレストランは現在では贅沢消費というより安くそこそこの美味しさを提供するサービスという見方です。
あと、百貨店でも中流程のイオンは売上高下がっていないため、此処等のイオンや西武百貨店辺りとかまでも下がって、ディスカウントショップが上がって来ると更に心配事が増えてきそう、、、
及ばずながら、私も同様です。
4月に書いた「財政出動論33 消費増税の恒久的な影響と短期の影響」
http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.jp/2014/04/blog-post.html
で、あらためて駈込み・反動減との関係を整理し直しましたが、昨年4月の「財政出動論24 消費税増税の影響(97年増税の例)」以降、24B、24Cと、ずっと消費税の『所得効果』(所得効果とは、増税が家計の可処分所得に与える影響のこと)=「恒久的影響」の影響について、整理してきました。
もちろん、所得が上昇すれば、こうした所得効果のマイナスは、吸収されていくのですが・・・。
かといって消費以外の他の需要項目・・・設備投資、外需についても予断を許さないと理解しました。