経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・愚かなる漁民とは

2017年09月03日 | 経済(主なもの)
 目の前の魚を取り尽くし、資源を枯渇させて身の破滅へ至る。先週の日経ビジネスの特集を読んで、日本の漁民は何と愚かなのかと思われた方も少なくなかったと思う。政策的にも、所得補償をして禁漁にし、回復した資源から回収すれば、長期的な財政負担はないのに、当座の余裕のなさから、手をこまねくのみである。まあ、漁業は他人事かもしれないが、非正規で若者を絞り尽くし、子供を持てなくさせ、人口崩壊に至るのと、何が違うのか。

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 7月の経済指標は、どれも順調だった。景気は、2%台後半の成長に向け、着々と足場を固めている。まず、消費だが、商業動態の小売業が前月比+1.1となり、家計調査の消費水準指数(除く住居等)は+1.2となった。これからすれば、日銀・消費水準指数は、商業動態に近い伸びとなり、内閣府・消費総合指数は、家計調査が「含む住居等」が逆向きにあるので、低めの伸びとなろう。

 いずれにせよ、7月の消費は、4-6月期と比べ、2%台後半の成長を確保できたと見ている。毎月勤労統計は未発表だが、この1年、常用雇用が毎期+0.6を確保し、春から現金給与も上昇を始めており、背景となる所得が着実に増しているのだから、消費が2%台後半になるのは、自然だし、底堅いと言えるだろう。景気は、この3四半期で、次々と変貌したため、消費増税後の低迷を引きずらずに、認識を最新にしておきたい。

 公式には、消費増税でも景気回復は途切れず、「いざなぎを超えるか」などと言われているが、こうした大雑把な捉え方では、現実を見誤る。実際には、消費増税で成長は失速し、低迷が続き、本当に回復したのは、2016年7-9月期以降、輸出が急伸してからだ。そして、10-12月期に設備投資が追いかけ、今年に入って、物価高に抑えられていた消費が顕在化してきた。この展開は、かなり急だったため、景気の認識が追い付いてないように思われる。

 蛇足だが、消費増税は、日本経済をメルトダウンさせかねないほどの大打撃だった。そうならずに済んだのは、2014年度は輸出に恵まれたことに尽きる。運が良かっただけで、「またできる」などと絶対に考えてはいけない。冷や汗もの、綱渡りだったのであり、「増税と歳出増を組み合わせれば良い」というのは、ディティールを知らない素人の危い発想である。IMFの指摘のように1%に刻んですら、なお難しく、筆者も考えあぐねるところだ。

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 7月の経済指標の特徴は、男性の雇用の改善である。労働力調査の雇用者数は、前月比+10万人となり、昨年12月から7か月ぶりに最高を更新した。就業者数も同様である。家計調査の勤労者世帯の7月の実収入の急伸と合わせ、半年ほどの雇用者数の頭打ち状態を抜けて、雇用が質・量ともに改善する展開を期待したい。むろん、この背景には、フルタイムの求人の質的な変化がある。

 新規求人の増加数を前年比で見ると、今や、製造業が医療福祉を超えるようになっている。建設業も医療福祉と肩を並べ、更には運輸業の追い上げも見られる。消費増税後の「雇用増は女性中心の医療福祉ばかり」という状態が変わり、今年に入って男性向きの求人が増え、特に直近3か月は目立つ。それが背景にあっての男性の雇用増であり、これなしに賃金増へはつながらない。

 「アベノミクスは成功か失敗か」という議論もあるが、景気を一連のものと見るから判断が分かれる。2013年は「成功」、2014,15年は「失敗」、2016年後半から「成功」でどうか。景気回復は、始まって1年も経ってないと思えば、賃金や物価が上昇が乏しくても、ある意味、当然である。しかも、「失敗」とは言え、財政収支の大幅な改善という「成功」と引き換えにしたのだから、求め過ぎではあるまいか。

 大事なのは、何が成否を分けたかである。消費増税を見送って内需を維持したら、外需にも恵まれて、景気は好転した。すなわち、金融緩和でも、成長戦略でもない。それらは、需要管理の代わりにしてはいけないもので、邪魔にならない程度にしておくべきものだ。需要安定には、派手さがない代わり、急性の弊害もない。未知の領域の金融緩和や、財政に大穴の法人減税、利権に塗れた規制特区など、危いものが好まれるのは、なぜなのかな。

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 9/1には、4‐6月期の法人企業統計も発表になり、設備投資は、製造業が前期比-5.4%、非製造業が-1.4%だった。非製造業は、高めの伸びが3期続いていたので、小休止と見ることもできるが、製造業は2期連続の減少で幅も大きく、前年7-9月期並みの水準に逆戻りである。GDPの2次速報での下方修正は避けられないものの、鉱工業指数を見る限り、先行きには、あまり不安がない。

 7月の鉱工業生産は前月比-0.8にとどまったが、予測指数は8月+6.0、9月+-3.1と高めである。また、設備投資の目安となる資本財(除く輸送機械)については、7月-4.1、8月+12.1、9月-11.4となっている。いずれも、上下に振れつつも、上昇基調にある。ついでに言えば、建設財も上向きだ。これは、全産業活動指数で分かるように、企業の建設投資の高い伸びも、その一因である。

 他方、法人企業統計の売上高は前年同期比+6.7%、うち、製造業が+4.8%、非製造業が+7.4%と、前期より伸びが加速した。経常利益は同じく+22.6%で、製造業が+46.4%、非製造業が+13.0%だった。6月時点の年間の企業業績見通しは+10%前後だったので、こうした好調さを受けて大幅に上方修正されよう。そうなれば、税収の上振れによる、それなりの補正予算の編成も考えられるところだ。

 ただし、常識的には、建設国債を使える公共事業の追加である。前年は、秋に息切して急減させ、春には急増させるというチグハグぶりだった。足下では、企業の建設投資が伸び、住宅が底入れしているから、これらに道を譲るよう、公共事業は抑えぎみが正しい。カネがあるなら、非正規の社会保険料でも軽くし、若者を助けてやってはどうか。しかし、そこは、漁業と同様、資源の回復に投資しようとはならない。人的資本も、自由に任せるだけでは、再生されないのだがね。

(図)




(今日までの日経)
 税収 世界で奪い合い。待機児童 減らぬワケ。設備投資強め基調続く・法企。消費者心理8月は悪化。ネット価格 店より1割安。資産効率、日本が米を逆転。公務員定年65歳に。
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