経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本財政の不思議の理由

2011年07月13日 | 経済
 今日の日経は、「続く円高、欧米財政に懸念」だ。まあ、他にニュースがないということかもしれんが、日米欧の中で、相対的なものとは言え、日本の財政状況が最も良好だと、市場からは評価されているとする記事が一面トップになるとは。何やら、世間から見れば、「不思議」な状況が起こっている。

 これを見ても、「日本の政府債務のGDP比率は先進国で最悪なのだから、おかしい!」という方も居ようが、現実が間違っていると叫んでも始まらないだろう。疑うべきは、市場や現実ではなく、債務比率の高さだけで財政の良し悪しを考える「バカの一つ覚え」の認識の方だろう。言わずもがなだが、それは判断要素の一つでしかない。

 日本の財政は、2010年度内において、5.7兆円の歳出削減に成功し、4.0兆円の税収増加を達成した。合わせて約10兆円、GDPの2%近い財政再建を成し遂げているのだから、評価が低くなるわけがない。ナニ、そんなこと聞いたことがない? 財政当局は、敢えて、そういう説明はしないけれども、基礎資料に当たれば、誰でも計算できることだ。財政当局が与えるエサ情報で満足する「バカの一つ覚え」派には、分からないだろうが。

 日本の政治は酷い状況だが、大震災に見舞われ、一次と二次補正合わせて6兆円の復興費を支出しても、まだ国債の増発には至ってない。三次補正は10兆円とされるが、秋に編成されるなら、大半の執行は翌年度回しになるから、大きな増発要因にならない。2012年度と13年度にまたがっての執行となれば、実質的な歳出規模は、10年度や11年度と大差なくなる。成長復活に伴う税の自然増収も踏まえれば、むしろ、財政は良くなると思われる。

 こうして見れば、日本の財政状況が相対的に高く評価されることに不思議さはない。不思議に思うのは素人だけなのだ。昨日、久々に、権丈善一先生が朝日に談話を載せていたが、社会保障についてはプロ中のプロでも、財政については素人っぽさが拭えない。なにせ財政は、当局が情報操作をかます、「蛇の道」なのでね。

 先生は、「政府債務は1000兆円、金利1%上昇で10兆円の追加支出、末期の財政」とおっしゃるのだが、金融資産には課税がなされていて、金利が上昇することによって、支出と同時に、税収も増えることを見落としている。財政当局は、金利上昇で国債費が膨らむ話はしても、税収が増える話は一切しないからね。

 日銀の資金循環表を見ると、一般政府の純債務が560兆円なのに対し、家計の粗資産は1476兆円、民間非金融法人は798兆円ある。したがって、20%の利子課税がなされているとすると、金利が1%上昇すれば、4.5兆円の税収増になる。他方、一般政府の利払いは5.6兆円の増加だ。結局、ほとんどが税収増でカバーできる計算になる。もし、税率が25%に引き上げられるなら、金利上昇は、財政の好転要素にすらなる。

 むろん、以上の試算は、概念的なものである。実際の税収は、こんな簡単な計算では済まない。ただ、言えることは、法人税や相続税などを含めた資産課税をまじめにしていれば、金利上昇は、財政を苦境に追いやることはなく、成長率のアップは、確実に財政を好転させるということである。大事なのは、むやみに法人減税をしたり、資産課税を優遇したりして、税制に穴を開けないことだ。

 筆者は、社会保障の充実のために消費税増税は必要だと考えているし、高齢化によって需要圧力が増し、インフレ抑制のため、財政再建に必要なもの以上の増税まで必要になる時代が来るとも思っている。だからと言って、時代の方向だけで判断し、今すぐ、どんな増税をしても大丈夫とはならない。経済状況を見極め、財政状況を把握し、需要の安定的な管理をすることが経済運営の基本なのである。

(今日の日経)
 続く円高、欧米財政に懸念、マネーはリスク回避。パソコン時代に終止符、部品の4割日本製。2次補正、22日にも成立。首相、原発国有化に言及。研究効率、欧米に見劣り。高額医療の負担軽減、厚労省、月額上限下げ検討。日本国債、金利上昇リスク。税収増が必要。南欧、見えぬ財政再建。中国、カネ余り懸念続く、マネーサプライ15.9%増。東南アで国際物流。星野リゾート、高級旅館チェーン展開。経済教室・原発賠償には更生法・福井秀夫。

※コンセプトより部品に日本の強さ。※国有化に代価は払うのかね。※マクロで成長しなければ効率は下がる。※低所得層対策は地味だが大事。※企業が投資に動けば、景気が好転しているということだから、国債は減らせる。金利上昇の評価損に対応できないのでは、債権のプロではなかろう。こういう局面では税収増にもなる。経済の全体を見なければならない。※再建には成長が必要で、それには設備投資が必要だが、ギリシャでどう確保する。※中国はインフレが収まりそうにないな。
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