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 地方裁判所委員会は,裁判所運営に地域の市民の声を反映させるという趣旨で平成15年に設置された制度で,多数の学識経験者委員を任命する諮問機関である。戦後すぐに設立された家庭裁判所委員会にならったものである。家裁委員会の歴史,戦後の活発な活動と無惨なまでの形骸化の軌跡等の詳細については,「自由と正義」平成16年5月号の「『天窓』は開かれたか」という文章をお読みいただきたい。
 私は,この委員会がうまく機能すれば,キャリアシステムの論理を中心として成り立つ「閉ざされた価値システム」としての裁判所の「天窓」を開け放ち,真に地域に根ざした裁判所に生まれ変わる「突破口」になると期待していた。現状ではその期待は相当に裏切られていると言わざるを得ないが,存在し続けることに意義があると考えることにしている。
 各地の委員会の議事概要は,各裁判所のホームページの「○○地方裁判所について」「○○家庭裁判所について」の所をクリックし,更に「委員会」というところをクリックするとご覧いただける。
 先日,日弁連で,各地裁・家裁委員会の学識経験者委員(市民委員)経験者の方のお話を伺う機会があった。以下は元市民委員の方の声である。
 「何のための委員会か分からなかった。『市民の声を聞く』ということについて裁判所はどういうイメージを持っていたのか。我々が述べた意見は聞いただけなのか。誰がいつまでにどのようなことをするのかが明確にされない。」
 「議事概要の公開だけでは活性化しない。どう反映されたかのフィードバックが必要。」
 「裁判所のパンフレットは,制度について前提知識がある人にしか分からない。そのことを指摘して所長は『なるほど』と言ったが,それを最高裁に伝えてどうなったかがわからない。」
 「今でも形骸化しているが,裁判員裁判がテーマになる今はまだまし。裁判員制度が落ち着いたらもっと形骸化するのではないか。」
 「委員長が所長なのはおかしい。現状維持でお茶を濁すことになる。」
 某地裁委員会の片隅を汚している私から見ても,誠にごもっともなご指摘ばかりである。
 そもそも,大多数の委員会の委員長が,裁判所長のままである。地方自治体の審議会等を経験すれば分かるが,諮問する側の長が諮問機関の委員長に平然と就任するような愚挙は他に類を見ないであろう。
 もちろん,調停での当事者の呼び出しを名前でなく番号に変えたとか,カウンターにプライバシー保護のための衝立を設置したとか,一定の改善に結びついた例もある。利用者に対するアンケートを実施している庁も相当数出てきたが,松山家裁のように直截に顧客満足度を尋ねるものは少ない。
http://www.courts.go.jp/matsuyama/about/iinkai/pdf/katei011_a.pdf
(松山家裁の利用者アンケート)
 裁判所側の発想は,どうしても裁判所が伝えたいことを正確に理解して欲しいとか,クレームをつけられないようにという方向に向きがちだが,むしろこの委員会を積極的に利用して地域のニーズを受け止め,裁判所の人的・物的資源の充実への追い風にするというくらいの発想が生まれて欲しいものである。最高裁の一般規則制定諮問委員会での議論では,公聴会的なものが想定されていたのであるから,例えば庁舎設計に利用者の声を活かすような工夫の余地はあると思われる。
 最後にある地裁市民委員の言葉を引用して結びとする。
 「議論は勝負を争うものではない。お互いの価値を理解し合い,違いを認め合って,意識を変えていくことが大事である。」
(くまちん)


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