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<書評>人類学と骨

2024-05-08 | アイヌ民族関連

北海道新聞2024年5月5日 5:00

楊海英著

研究者に潜む差別意識

評 松本ますみ(室蘭工大名誉教授)

 日本文化人類学会が4月、従来のアイヌ民族に対する研究姿勢について問題があったと謝罪した。だが、日本人類学会と日本考古学協会の動きはまだつかめない。盗掘を含め収集された日本各地の大学や胆振管内白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)にある遺骨の返還へのハードルは依然高い。かつて形質人類学や考古学の学者は、北海道、沖縄、樺太、台湾、「満蒙」や遠く新疆(しんきょう)でヒトの遺骨を収集した。それはなぜか? 本書は、その謎を解くミステリー小説のような構成となっている。

 顔や頭蓋骨の形状やサイズを測る形質人類学は19世紀の西欧帝国主義国家で発達した。身体的違いがヒトの優劣を決めるとしたこの学問は白色人種の優越を証明しようとした。しかし後発の帝国主義国家日本で形質人類学は西欧と違った形で発達をみた。旧帝国大学の形質人類学者たちは競って植民地を含む日本の勢力範囲内に住む人々の頭や遺骨に「人類学用計測器械」を当てた。頭蓋容積測定のデータは権威ある学問の装いをしていた。東アジアの「盟主」日本人のルーツ探しと「優秀さ」の証明が時代の要請だった。墓あばきや遺骨盗掘は大罪と知りつつ遺骨を集め、計測し、研究成果を発表した学者たち。現地の人々は研究対象でしかなかった。最も多くの遺骨が収集されたのはアイヌ民族で、「アイヌは日本古来の民族説」を立証すべく人権や尊厳を考慮しない研究が大規模に行われた。

 当時の形質人類学の系譜につながる研究者は、ヒトゲノムの時代だからこそ遺骨を使った学問に意味がある、と現在も主張する。また、アイヌ民族や琉球民族の遺骨返還がされるとしても、旧植民地の博物館や大学に眠るモンゴルや新疆からの遺骨はどうなのか。内モンゴル出身の筆者は、ユーラシアで激しい混血は当然で誰もルーツを気にしないのに、日本人のルーツ探しが日本で盛んなのが不思議だという。さらに遺骨問題の放置にこそ、血統に固執する不寛容さに基づく日本の差別意識が見える、とも指摘する。すぐれた文化人類学者による手痛い告発の書でもある。(岩波書店 2310円)

<略歴>

よう・かいえい 静岡大人文社会科学部教授。「墓標なき草原」など著書多数

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1008415/

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