先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

「消滅危機」のアイヌ語 復興できるか< タネ オカアン ウㇱケ~アイヌ新法5年>㊤

2024-05-19 | アイヌ民族関連

武藤里美 会員限定記事

北海道新聞2024年5月18日 12:00(5月18日 18:12更新)

 アイヌ民族を先住民族と明記したアイヌ新法の施行から24日で5年になります。アイヌ民族が直面している現実を追います。(3回連載します)

「タネ オカアン ウㇱケ」はアイヌ語で「いま私たちがいるところ」の意味です(萱野茂二風谷アイヌ資料館の萱野志朗館長、アイヌ語講師の関根健司さん監修)

かつて講師を務めたアイヌ語講座の教材を前に、アイヌ語の現状について話す熊谷カネさん

 日高管内様似町で暮らす熊谷カネさん(82)は、アイヌ語講座の古いテキストに目をやった。「私は今でも『アイヌ語が身についた』とは言えない。それが悔しい」。熊谷さんはかつて、道内ラジオ局の番組などでアイヌ語の講師を務めていた。

「法律あっても救われていない」 SNSで増幅する差別

ゴールデンカムイで高まる関心 「その先」の共感へ、どうつなげる?

■両親に教われず

 明治生まれの両親はアイヌ語で会話ができたが、熊谷さんには教えなかった。母親に意味を尋ねて教わった<パセノポイヤイライケレ(本当にありがとう)>など短い表現や一部の単語は分かる。ただ、<寒いので水が凍る><あしたはどこに行きますか>といった内容になると、「単語は分かっても、すぐには文にできない」。一緒に暮らす2人の娘との会話も日本語だ。

 熊谷さんは20代前半で結婚し、4人の子どもに恵まれた。アイヌ語を学び始めたのは50代後半になってから。「両親が話していた言葉を知りたい」との思いからだった。

 当時既にアイヌ語を日常的に話す人は周囲に一人もいなかった。過去に研究者らが録音していた母の語りを聞いて学んでも、使いこなせない。「両親は私の人生には必要がないと思ってアイヌ語を教えなかったんだろう」と思う。だが、後悔の念は消えない。幼いころから学べていたら―。

 「消滅危機言語」。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2009年、話者減少により消滅する恐れがある2473言語を公表した。このうち最も危機的とされる577言語の中にアイヌ語がある。

 ユネスコによると、明治政府の北海道開発が始まる19世紀後半、少なくともアイヌ語話者として1万5千人が確認されている。だが、2017年度に道が道内のアイヌ民族を対象に行った調査では、アイヌ語で「会話ができる」と答えたのは、回答した671人のうち0.7%。人数にしてわずか5人にとどまった。

 北大アイヌ・先住民研究センターの丹菊逸治准教授(言語学)によると、明治政府から続いた同化政策の結果、アイヌ民族の子どもたちにも日本語での教育が徹底された。

 1910年代に入ると、アイヌ語のみを話す人は一部の高齢者だけになった。70年代まではアイヌ語が使われていたという記録が残るが、丹菊准教授は「現状では日常的にアイヌ語を話しているコミュニティーはなくなったとみられる」と分析する。

 2019年に施行されたアイヌ施策推進法(アイヌ新法)は、アイヌ語を含むアイヌ文化の振興や文化に関する知識の普及、啓発などを進めると明記。文化庁は過去に録音されたアイヌ語資料のデジタル化を進めている。アイヌ民族文化財団は初心者向け講座などを実施するが、道央のアイヌ語教育関係者は「会話よりも文法が重視され、アイヌ語で話せる人は増えていない」と危機感を募らせる。

■対話を重ね学習

 ・・・・・・・

(報道センター 武藤里美)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1012299/

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ウポポイに礼拝室設置 アイヌ... | トップ | 「法律あっても救われていな... »
最新の画像もっと見る

アイヌ民族関連」カテゴリの最新記事