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《132》 サーミの人たちの内部被曝

2014-12-04 | 先住民族関連
朝日新聞- 2014年12月 3日
坪倉正治 (つぼくら・まさはる)
ノルウェーの北、北緯70度、北極圏内に位置するトロムセに行ってきました。乗り換えのオスロで荷物がなくなり、待っている間に最終便を逃すなど、すったもんだがありましたが、片道20時間ぐらいで無事にたどり着きました。北緯70度ですが、海流の影響で最高気温は0度を超えます。一面雪でしたが、浜通りより少し寒いくらいの場所です。
丹羽太貫先生のご紹介で、ノルウェーの放射線防護庁主催のセミナーに、伊達市の石川哲也さん、飯舘村の菅野宗夫さんと一緒に参加しました。フランスやドイツ、スロバキアなど、ヨーロッパの各国からも放射線防護を担当されている方が参加されていました。私も浜通りでの経験をお話しする機会をいただきました。
なぜノルウェーなのか?
ご存じの方も多いと思いますが、ノルウェー北部は、1986年4月26日のチェルノブイリ事故から3日後、主に4月29日のプルームの影響で大地が汚染されました。今回の福島原発での事故と同じ、主にセシウムです。ノルウェーの北部というより、ラップランド(スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・ロシアの4ヶ国にまたがるスカンジナビア半島北部からコラ半島に至る地域)といった方がなじみあるかもしれません。
そこでは先住民族であるサーミ人が居住していますが、彼らは核実験と、チェルノブイリ事故のためにセシウムによる長期の内部汚染を強いられました。伝統的にトナカイを放牧・狩猟し、タンパク質の主要供給源がトナカイの肉でした(平均で年間15kg〜20kg程度摂取)。トナカイはコケ類を食べるため、日本でいう猪の肉のような高度の放射能汚染が起きたからです。
その日の夕食、トナカイの肉に甘いベリーのソースをかけ、付け合わせにキノコがついてきました。初めて食べて、美味しいなと感じる一方、確かに検査や対策を全くせずに摂取を続ければ、それなりの内部汚染を引き起こす可能性はあるなと感じました。データでいうなら、内部汚染の85%〜90%程度がトナカイの肉、約3%程度がキノコと淡水魚、1%がベリーとのことでした。食生活のパターンにもよりますが、キノコが70〜80%程度を占めていたチェルノブイリ周辺とはまた違った分布です。しかしながら、いくらかの汚染されやすい食材を未検査で継続的に食べる部分に(のみ)リスクが存在し、その他の食材全般にまんべんなく汚染リスクがあるという状況ではないことは、福島と同様のようでした。
南サーミ人のデータでは、チェルノブイリ事故から13年後の1999年のCs-137による内部汚染は、平均で150Bq/kg程度。チェルノブイリ事故直後であれば、平均で500Bq/kgを超えることもざらだったようです。今の南相馬市立総合病院で、この半年に計測される「最大値」の2倍ぐらいが、彼らの「平均値」になります。最大値とはいっても、はずれ値のようにぽつんと計測されるような状況ですし、以前お会いした、検査を全く経ない猪の肉やキノコ類や山菜類を摂取していた方(日本国内で私が出会った最大値の方)よりも彼らの平均値の方が高いことになります。ちなみにCs-137だけなら、数百Bq/kgで初めて年間1mSv程度の被曝となります。
WBCによる継続的なモニタリングをしたり、高い方に対する食事指導やカウンセリング、一般的な健康相談したりするなど、今の福島県内で行われることと同じことがなされていました。正直なところ、検査を続けてはいるものの、もうあまり積極的に介入したり検査をしたりという状況でもない印象を受けました。
サーミ人に対する発がんリスクの調査は、以前から行われており、先日そのreviewが公開されています。
そこでは9つの論文が対象となっていますが、その全ての論文でサーミ人の方が、サーミ人以外よりもがんの発生率とがん死亡が「少ない」ことが示されています。
サンプルサイズが小さいのではないか?とか、人種間の前立腺がんの数の差のような、遺伝的背景による差が大きいのではないか?とか、それぞれの対象の内部被曝を完全に追跡したデータではないという話、胃がんだけはサーミ人に多かった(これはサーミ人の方が保存食などの摂取が多く、塩分摂取量が多いことに起因するのではと考えられている。)という話など、いくつかの論文だけで全てを語れるわけではありませんが、上記の様なサーミ人の内部汚染による影響は、もともと計測される環境放射線量の差の中に完全に埋もれてしまい、生活習慣や遺伝的背景の差からはかき消えてしまう程度に小さいのだと思います。
その先で、だからといって、「何も問題ありませんね、以上」というふうに話が終わるわけではないことも同様のようでした。サーミ人の伝統と文化をどのようにして守っていくのか?という話をしていました。
(つづく)
坪倉正治 (つぼくら・まさはる)
東京大医科研医師(血液内科)、南相馬市立総合病院非常勤医。週の半分は福島で医療支援に従事。原発事故による内部被曝を心配する被災者の相談にも応じている。
坪倉正治さんインタビュー
健康・医療フォーラム2012

(写真)11月のトロムセは一日中夜の極夜ではなかったですが、日照時間は数時間しかありませんでした。静かできれいな場所でした。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/2014120200010.html

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