今日は「穴3」です。
先週、久しぶりにオヨヨ書林せせらぎ通り店に行きました。そこで買ったのは雑誌「太陽」(1993 No.382)です。その特集は「瀧口修造のミクロコスモス オブジェ・コレクション全250」です。
瀧口修造は富山出身のシュルリアリストで、富山県立近代美術館には瀧口修造コレクションが常設展示してあり、私は2年前に「夢の漂流物」というオブジェ・コレクションの一部を見た事があります。今回入手した雑誌の古本には、富山県立近代美術館で見たものを含めて、瀧口修造のオブジェ・コレクションの写真が全てカタログのように並んで載っておりました。
瀧口修造はそれらの「オブジェの店」を出したかったそうですが、オブジェ・ショップは実現しませんでした。そういえば、宮沢賢治も鉱物標本店をやりたかったそうですが、そちらも実現しませんでした。そういう意味で私が、現在、鉱物のお店をやっている事は幸せな事かも知れません。
瀧口修造のオブジェ・コレクションには面白いものが多く、それらの中には欲しくなるオブジェもいくつかあります。私は実際に「ミラモンド」(ガブリエーレ・デ・ヴェッキ 1960年)の復刻版を持っております。それはALESSIが出した復刻版で、コニーズアイというデザイン・ショップに頼んで購入しました。
さて、瀧口修造のオブジェ・コレクションの中にはもちろん石もあります。特に「穴だらけの石」というものは、実物を富山県立近代美術館でも見ましたが、実際、穴だらけの石です。それを見た瞬間、それは能登の見附島(軍艦島)で拾ったものだろうと思いました。私も同じような石を同じ場所で拾っていたからです。
これは見附島近辺でよく見掛ける泥岩です。それは「穴だらけの石」です。穴の正体は貝類が空けた巣穴です。これらは生痕化石と呼ばれます。
瀧口修造は恐らく、この「穴だらけの石」をシュルレアリストらしい審美眼で、面白いオブジェとして捉え、思わず自分のオブジェ・コレクションにしたのだろうと想像できます。それは地質学者や化石マニアのような観点からではなく、純粋にその形態美に魅かれたものだと思います。その観点には鉱物標本に美を見出す観点と共通している美学が感じられます。
シュルレアリスムの美学と鉱物趣味の美学の相関性は高いと思われます。実際、シュルリアリスム的審美眼には愛石的な要素もあり、アンドレ・ブルトンの著作には「石の言語」という文章があり、それは「書物の王国6 鉱物」(国書刊行会 1997年)に載っております。
今日は「穴」とシュルレアリスム的審美眼について少し思いを巡らせてみました。