ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

花に想う・・・

2015年05月15日 01時32分25秒 | Weblog
GW明けの先日、今期最後の雪山登山として「奥穂高岳」を目指した。
台風が接近している情報はあったが、まぁ無理せず行けるところまで・・・と思い、計画を実行した。

詳細は後日アップすることとして。

5/11
肌寒い上高地を6時にスタート。
順調に進み、約4時間で「本谷橋」へと到着した。
ここでいつも通り簡単に昼食を摂った。
ここからの約2時間がきついのだ。
テントを詰めたザックの重量が痩せた肩に「これでもか!」と食い込んでくる。
見上げた一面雪の斜面はたいした斜度には見えないが、振り返って見ればかなりの斜度であることが分かった。
かなりきつい。
去年もそうだった。
だから、今回は絶対に飛ばさずに登ることにした。
だが、やはり最後が最もきつい。
50歩登っては一息つくようになってしまった。

テントの設営後はのんびりと明日に向けての予備調査を行った。
30分程度だったが、明日の予定ルートを登ってみた。
「雪が緩いなぁ・・・」
一応地図を用いて磁北線の他に方角線を一本記入しておいた。
ほぼ直登ルートだけに、ある意味助かった。
後はコンパスを頼りに登ればOKだ。

夕食後アタックに向けた荷物の最終チェックをした。
早めに眠りに就いたのだが、23時頃に目が覚め、テントから顔を出し夜空を見上げた。
星空が美しい。
これなら明日は大丈夫かな。

しかし、やはり天気予報は正しかった。
フライシートに雨粒の当たる音で目が覚めた。
時刻は午前1時を過ぎていた。
風も強く、時折テントが飛ばされるんじゃないかと思う程の強風となった。
眠れない・・・。
大雨の中アルパインジャケットとパンツをはいて外へ出た。
ヘッドランプの灯りが雨を照らすと、大粒の雨が自分の目の前をほぼ真横に飛んで行くのが分かった。
「この風かよ。きついなぁ」
体を煽られながら、何とか刺した竹ペグの上に雪を詰め直した。
張り綱もチェック。
これで眠れる・・・と思ったが、あまりの風の強さに不安が勝り、結局ほとんど眠ることができなかった。

幸い夜明け前に雨は止んでくれたが、まだ風だけは強かった。
行くか止めるか悩んだが、行けるところまでと決め、アタックザックを背負った。
ガスが濃く、視界も極端に悪く短い。
おまけに大雨のせいで、昨日よりも更に雪は柔らかくなってしまっていた。

「はて、トレースが・・・」
そう、雨で表面が溶け、確実なトレースが分からなくなってしまっていたのだ。
一応トレースらしき痕跡はあるのだが、それが足跡なのか。それとも唯の凹凸なのかがはっきりとした確証が持てなかった。

地図とコンパスで直登ルートを探した。
方角は間違いないだろうが、一抹の不安は残る。
「行けるところまで・・・」と思ってはいても、極端に濃いガスで先が殆ど見えなかった。

約1時間程登っただろうか。
雪面の緩さでアイゼンの爪が利いてくれない。
ピッケルも同様だった。
なのに斜度は増してきている。
そして、遂には落石の洗礼を受ける羽目になった。
雪山の落石ほどいやらしいものはない。
音を立てずに落ちてくるのだ。
雪面が雪で柔らかいため音がほとんどせず、聞こえた時には自分のすぐ目の前とかの状況になってしまっているのだ。
それだけではない。
この濃いガスのために、どこから落ちてくるのかさへも分からなかった。

つい先日、隣の前穂高岳で落石事故で人が亡くなっていることを思い出した。
「止めよう。今回は止めた方がいい。」
自分としては意外ときっぱりとあきらめがついた方だった。
これも1月の横岳縦走の一件があってこそだろう。

テントへと戻り、お湯を沸かした。
インスタントだが、甘いチャイを飲んだ。
飲みながら思った。
正直に言えば悔しい。
それでも、今までの悔しさとは少しだけ違っている。
素直に登攀を諦めることができただけ経験が生きているのだ。

再びテントを担いで山を下りた。
途中驚いたことに、ルート上の雪面一帯には折れた樹木の枝が一面に広がり落ちていた。
先へ進むと、今度は枝だけでなくかなり太い樹木までもがなぎ倒されたかのように何本もルートを遮っていた。
両脇の斜面から折れて落ちてきたのだろう。
昨夜の風の強さがこれほどまでとは・・・。

横尾で一休みをし、徳澤へと向かった。
お楽しみである徳澤園のソフトクリームが待っている(笑)。
これがまた実に美味いのだ!

あと2時間もかからずに上高地へと着く。
今夜はここでのんびりとテント泊だ。
慌てることもないのでスピードを落とし、ゆっくりと歩いた。
ゆっくりと歩けば、周囲に目も向いてくる。
足下には真っ白な花が群生を成し咲き乱れていた。
「チングルマか・・・、葉はハクサンイチゲに似ているけど・・・。」
そんなはずはなかった。
チングルマもハクサンイチゲも、両方とも夏の高山植物だからだ。

花に詳しくない自分がちょっと恥ずかしかったが、足を止めその場に座り込んでまでその花を見ていた。

陽のほとんど差し込まない場所に咲く白い花。
つい数時間前、滑落と落石に身の危険を感じていたことが嘘のようだった。
それらを忘れさせてくれる花だった。

「もう少し花の名前を覚えなきゃな・・・(苦笑)」