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6月3日の日記(3)・紫の雨-福井爽人展つづき

2006年06月08日 00時23分33秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 日記(2)のつづきです。

 福井さんがどういう画家なのかについては、先のエントリの、奥岡館長のあいさつで簡潔に述べられています。
 少し付け加えるならば、札幌北高校を卒業して日大芸術学部に進学しますが、日本画への思いやみがたかったのか、そこを中退して24歳で東京藝大に入っています。
 院展同人に推挙されたのは1983年、46歳のときです。
 94年に道立旭川美術館と市立小樽美術館で「現代日本画の叙情詩人 福井爽人展」がひらかれていますが、筆者は見ていません。

 さて、会場は、明確にコーナー分けがなされているわけではありませんが、作風はだいたい3つにわかれているように感じました。

1. 落ち着いた色彩の花などの静物に、欧洲の街並みなどの風景(さらに、時には人物も)を組み合わせたロマンティックな絵
2. 道内や西域などの風景を、他の要素を組み入れることなく、ストレートに描いた絵
3. インドなどの風景と人物を題材にしたもの

 筆者の好みでいえば、1に分類される絵はちょっと甘美にすぎるような感じがあるので、2や3のほうが好きなのです。
 2でいえば、たとえば「雪の沼」。
 冬の林の中に暗い沼があるという、それだけの絵なんですが、広い画面にそれだけしかないのがいい。なんともいえない寂寥感と静けさの中に、ほのかなあたたかみすら感じられるようです。
 福井さんは、人知れず存在している沼や池に心ひかれるものがあるらしく、「沼の風景」「冬のオアシス」などでも題材にしています。
 幼少時を過ごした札幌・琴似の水のある風景といえば、発寒川(現琴似発寒川)を思い出しますが、当時は名もない沼があったのかもしれません。
 1991年、院展で内閣総理大臣賞を受けた「秋影」も、わすれがたい印象をのこす大作です。
 猛烈な風に耐えてなびく枯れ草だけに題材を絞り、北国の自然のきびしさを知っているわたしたちの共感(植物に対する同情に近いもの)を呼び起こします。
 ただし、背景には緑青を用いており、ただ厳しいだけの描写になっていないところが、福井さんの絵のやさしさなんだなあと思います。

 インドなどに題材を得た作品も、雑沓とか汚れとか、そういう要素とはあくまで無縁なんですね。遠い記憶のように、どこまでも清澄なのが、福井さん流なのだと思いました。

6月3日-7月30日 会期中無休
札幌芸術の森美術館(札幌市南区芸術の森2)


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