北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

2023年に読んだ本

2023年12月31日 01時23分45秒 | つれづれ読書録
 ことし読んだ書物は107冊。
 2018年あたりだと年35冊などひどい年もあるので、それに比べればマシですが、仕事絡みの本が大半で、自分が読みたいアート関係の書籍がほとんど積ん読になっています。

 おもしろかった本をざっと挙げていきます。

 「笛吹き男」の正体(浜本隆志、筑摩選書)
 世界史。阿部謹也の名著「ハーメルンの笛吹き男」の業績を引き継ぎ、中世ドイツに起きた大量の児童失踪事件の真相に迫ろうとした本。ドイツの東方志向が地下水のように20世紀にまで引き継がれているという指摘が興味深い

 密漁海域 1991根室中間線(亀山仁、宝島社文庫)
 長編小説。過激な環境保護団体やヤクザが入り乱れる活劇。主人公の女性が強すぎてカッコイイ。

 木挽町のあだ討ち(永井紗耶子、新潮社)
 時代小説。江戸期の芝居小屋の前で起きた殺人事件の真相を、複数の視点で明らかにしていく。全体の構成も、人情の機微もすばらしく、山本賞と直木賞ダブル受賞もうなずける。

 孤塁(吉田千亜、岩波現代文庫)
 東日本大震災に襲われた、東京電力福島第1原発のお膝もとで、文字通り不眠不休で人命救助に当たった無名の消防署員たちのドキュメント。こんなに懸命に働いている人たちに正確な情報が伝わらないのがもどかしい。第一級のノンフィクション

 生きていく絵(荒井裕樹、ちくま文庫)
 精神を病んだりした人たちが「描かずにはいられなかった」絵についての物語。いわゆるアール・ブリュットとは異なった角度から見た美術についての話。ただ、昨年読んだ「凛として灯る」もそうだけど、荒井さんの本の題名はもう少し分かりやすくならないかなあ。

 シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界(立花隆、文春学藝ライブラリー)
 戦後、シベリアに抑留され、その体験をテーマにした絵を描き続けた画家についての文章や講演をまとめた一冊。田中政権退陣のきっかけをつくった辣腕ノンフィクションライターが、いかに広い範囲をカバーしていたかがわかる。立花隆が偉いのは、収容所があった土地まで実際に赴き、荷役で持たされた重たいモノを担ぐなどしていることだ

 公共哲学入門(齋藤純一、谷澤正嗣、NHKブックス)
 自由や政治の流れについて平易に解説した本

 完全なる白銀(岩井圭也、小学館)
 アラスカの冬山で消息を絶った女性は本当に登頂していたのか? 姉にかけられた嫌疑を晴らすべく妹は冬山にアタックする。日本人女性フォトグラファーとの友情や、地球温暖化問題、フェミニズムなども絡めた意欲的な長編小説。冬山アタックの描写が緊迫感にあふれ、おもしろかったが、これでも山本賞をとれないのだから、プロの文学の世界は厳しい

 魂魄の道 (目取真俊、影書房)
 沖縄と第2時世界大戦をテーマにした短篇集。沖縄の人にとって、あの戦争が決して過去のものではなく、現在と地続きであることがわかる。そして、沖縄を痛めつけたのが、米軍ではなく、沖縄を見下して、スパイの疑いをかけた帝国陸軍であったことも。今年のベストワン。

 おまえが決めるな! (嶋田美子、白順社)
 フェミニズムとアートの流れをわかりやすく解説した本。講義形式なので取っつきやすい

 それは誠 (乗代裕介、文芸春秋)
 修学旅行の自由行動を抜け出して、若いころ好きだった「おじさん」に会いに行こうという高校生の冒険を描いた青春小説。語り口にも技巧が凝らされているのに読みやすい。こんなに面白いのに芥川賞がとれないんだから、プロの文学の世界は厳しい。「ハンチバック」と同時受賞でいいじゃないですか(「ハンチバック」は雑誌掲載時に読んだので冊数には数えず。このときの芥川賞候補作は全部読んだけど、この2作が頭一つ抜けていた)

 検証 ナチスは「良いこと」もしたのか(小野寺拓也、田野大輔、岩波ブックレット)
 今年を代表するベストセラーといってもいいでしょうね。歴史を複眼で見ることの大切さも教えられる。これだけの内容をよくこのサイズに詰め込んだものだと驚嘆。結論を言うと、ナチはひとつもいいことをしてないようです

 北の前奏曲 (西村雄一郎、音楽之友社)
 「ゴジラ」で有名な伊福部昭と、「七人の侍」の早坂文雄。戦後の日本映画黄金期に輝く2人の作曲家は戦前、札幌で青春を共にしていた。1930年代の札幌の文化状況にも目配りした貴重なノンフィクション。ただ、早坂があまりに貧乏すぎて、かわいそうになってくる

 わたしの香港(カレン・チャン 亜紀書房)
 まだ20代の著者が民主化運動に揺れ動く香港で送った青春時代を回想した一冊。構成が未熟でまとまりが悪いし、周庭(アグネス)ら中心的人物も登場しないのだが、そこにかえって、ロックやアートに夢中なふつうの若者のリアルな息遣いが感じられる。ただ、この本のあと、政治状況は悪化の一途をたどっており、登場人物たちの現在が心配だ 

 朝露(琴仙姫、アートダイバー)
 北朝鮮を脱出して今は日本に暮らす朝鮮人たちとアーティストの共同プロジェクトの記録。大変重たい問題提起をしたアートで、作品自体は高く評価したいが、表紙の写真が摩周湖で撮影されていることへの違和感が最後までぬぐえなかった 

 卒業生には向かない真実(ホリー・ジャクソン 創元推理文庫)
 英国ミステリの翻訳。三部作の最終篇。SNSやポッドキャストも取り込まれ、すごく現代という感じがする

 ブルシット・ジョブの謎(酒井隆史、講談社現代新書)
 デヴィッド・グレーバー著「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」(筆者未読)の分かりやすい概説書。アナキズムは社会変革の革命ではなく日常の倫理なのだ、というのがおもしろい。あと「官のムダを省いて民間活力に任せる」と標榜する新自由主義がはびこってからの経済成長率が、「官のムダ」があったとされる1950~60年代を一貫して下回っているという指摘は重要

 カティンの森のヤニナ(小林文乃、河出書房新社)
 独ソ戦のさなか、ポーランドの森で将校たちが大量虐殺された。近年の調査で、ナチドイツではなくソ連の仕業と判明したが、その中にたったひとりの女性飛行士がいた。彼女の足跡を日本人女性が探す旅の記録。暗い歴史の闇に明るさを見いだそうという姿勢に共感を抱いた

 
 まだあるんですが、きょうはこのへんで。
 というか、ジャンルのバラバラさ加減に、われながらあきれています。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。