小林恵のNY通信

NY在住47年、2011年より東京谷中に居住。創造力をのばすためのエッセンス、スパイスをいれた私の暮らしの手帖です。

キルトに現わす社会意識

2011-05-03 21:02:57 | キルト

アメリカンコンセプト:協力と思いやり

 キルトに現わすコミュニティワークは最高の意思表示になります。
多くのキルターの虎の巻となった「アメリカンキルト事典」は1982年、文化出版局から出版されました。アメリカンキルトの歴史、生活文化を含めてアメリカのキルトの真髄を紹介した日本最初のキルトの総括本です。キルトに関する知識を網羅したキルター必読の座右の書だと自負していますがその後、やさしく作り方を解説した本がいろいろの作者により何百冊と出版されていることはご存じの通りです。
 そして現在何百万人という人がキルトに携わり、キルトインダストリーともいわれるような大ビジネスになったことは本当に結構なことだと思っています。

 最近、47年間住んだニューヨークをはなれ、日本に住むことになりました。展覧会の開催は重要ですが、針仕事をお見せするだけではあまり意味がありません。作り方はもう最高、頭が下がるほど上手です。しかし、何を伝えたいのかが重要です。

 4月24日付き読売新聞に、「キルトにつづる希望」と題して、大田区の主婦、米山幸子さんは沢山の人からメッセージが書き込まれた布地を集めた ”希望キルト”を東日本大震災者たちに贈りたいと制作中であるという記事が出ていました。
 
 ーなぜアメリカンキルトかー 事典を読んでいただければ理解できると思いますが、アメリカ人の血のにじんだクラフトと言われるのは、ほかの国と違うように発達し数限りなくアメリカ中で作られたことです。
 ベッドを温め、部屋を美しくするために作られたのは勿論、女性の発言の旗印に、また助け合いや歴史を刻む手段として、愛情をこめてキルトが作られたこと、しかもそれが社会現象となったこともアメリカだけなのです。移民たちが自由の女神をみて涙ぐむように、新世界で作られたキルトへの思いは、無名の女性たちの暮らしの
発言となっています。

 4分の1世紀を経て、自然現象として同じ様なムーブメントが日本で起きたことがとてもうれく思いました。何かを伝えたいとき、しかも広告代も出さずに心をこめて社会にアピールできる最大のクラフトがキルトです。このことはノーベル世界平和賞をノミネートされたエーズ撲滅キルトでもお分かりの通リです。エイズキルトプロジェクトはエイズ撲滅のパワーフルメッセージを込めた、最も大きいコミュニティ プロジェクトでキルトで世界に発言しました。
[草の根で社会を動かす針と布:アメリカンキルト」:(小林恵著 白水社 1999年 参照)

 日本のキルトフェスティバルで大木に付けた大量の葉っぱや、布地の草はらを布地で作ってみてもあまり意味がなさそうです。その時間を、四角だけでも良い、つなぎ合わせてキルトにメッセージを書き入れ世界の貧しい人たちに贈るアイデアのほうが役に立つのでないでしょうか。

 戦後の日本女性の針仕事でキルトのようにビジネスを確立できたものがあるでしょうか。
歴史に残る現象だと思います。女工哀史で知るように日本では悲しい社会に反抗も出来ず、女性が無視されていた時代、折からの産業革命でニューイングランドの女性織工たちは高給で雇用されていました。
彼女たちから奴隷が綿を摘み、私たちは布地を織って高給をもらうのはどこかがおかしい。これは不平等で社会悪だと、自発的に彼女たちから起した社会運動も一つの引き金となって南北戦争につながっていきました。アメリカ人は初期のころから女性たちの社会意識をキルトに示しました。

 このたびの東日本大震災で亡くなった方たちに心が痛みますが、いろいろの暮らしの原点を考えさせられたことは皆で襟を正す”時”なのでしょう。アメリカ生まれのキルトに日本の社会意識を書き込んだ草の根発言のキルトが出来つつあることを、知って歓声を上げずにはいられません。重要なことは積極的な自らの分かち合える行動だと思うからです。


癌患者への慰めの言葉、祈りを集めた励ましのアメリカン友情キルト(小林恵所有)

アメリカ8代の大統領のサインを集め、リンカーンと就任式にダンスをした人の作った署名キルト。(アメリカンキルト事典)
      
このキルトはフォークアート美術館の館長から所有者を紹介されインタビューもしました。
      19世紀のインテリ女性は職業もなく、せめて女性の社会意識をキルトに表現しました。     
 
      
NHKの「世界の手芸紀行」でも何度も放映され,現在はメトロポリタン美術館の所有です。

最近ニューヨークのアーモリーで600枚以上展示された赤白アンティックキルト。キルトが社会現象でいかにたくさんアメリカで作られたかおわかりのことと思います。 撮影・提供: 貴山宏美



   


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