小林恵のNY通信

NY在住47年、2011年より東京谷中に居住。創造力をのばすためのエッセンス、スパイスをいれた私の暮らしの手帖です。

「谷中を歩く・暮らしの心意気」

2011-02-26 07:39:40 | 暮らしのジャーナル


谷中を歩く…ああ日本、歴史の深さ、すてきすてき!

 日本に帰国中、しばらくぶりであった友人が「生まれた国はいいものよ。外国で一人で暮らすあなたのことを思うと,とても心配よ。帰っていらっしゃいよ」
「そうね今度は住む家をさがす目的で日本に帰ってくるわね」
と笹塚の駅でニューヨークで暮らしたことのある友人と名残惜しく別れた。

 その夜中の12時過ぎ、彼女からのお電話で
「私の姪の住んでいる家の1階があいているそうよ。見るなら明日連れて行ってあげるわ」 
私は翌日ニューヨークに帰ることになっていたが「見てみるわ」と答えた。

 西日暮里駅から特別に印象的でもない道を2階建ての家の2階に夫と娘、3人家族で住んでいるという家まで一緒に歩く。お墓を囲んだ塀の上から、塔婆がカタカタと音を立てて揺れている細い通りの
前にその家はあった。
 家中をめぐったあと、幸福に暮らせる予感がした。この日から6ヶ月後に私は谷中の住人になった。
 
 下町とはどういうところかも知らず、廻りの地図も知らず、日本のことを無知な私が半世紀近く住んだニューヨーク生活を引きあげることは、ニューヨークにきて住み始めるよりも簡単なことではなかった。ニューヨークにいった時と同じようにトランク1つで帰りたかったが、それはまったく無理であった。

 とにかく何も知らないニューヨークを3か月も上から下まで、西から東へくまなく毎日歩いたことを思えば、ここはとにかく怖いこともない優しい日本の町だ。

 さっそく谷中めぐりをはじめた。
寺の多い町。何世紀も経た寺々はよく手入れされ、古ぼけていないのは凄いと思う。お墓の町。美しい塀のある町。石垣の町。路地の町。猫の町。坂の町。     見上げても、見降ろしても美しい町。日暮らしの里、日没の太陽にきらきらと輝く町。知らない人に挨拶をしたくなる町だ。

同じ道を歩いて眼があった人に
 「素敵な町ですね」と言うと私の家までおしゃべりをしながらおくってくれた人、地図を自転車で届けてくれた人、美味しい店を教えてくれた人、僕の名前を言ってその人にぜひ会いに行きなさいと言った人。
 知らない人に教えたり、分かち合うのは町を愛している人たちの誇りなのだろう。時がゆったりと幸福に流れている。

 谷中の墓地でみつけた徳川慶喜のお墓は感無量だった。ついこの前ニューヨークを訪ねた友人に、ウオール ストリートのジョージ ワシントンの銅像の前で会おうというというと 「徳川慶喜より100年も前に生まれたアメリカ独立の最初の大統領の銅像の前で会うなんてとても素敵なアイデアね。」といった友人を思い出す。墓地は人影もなく湿っぽく、暗い感じがした。

 谷中には猫が多く、その昔墓地に猫を捨てたので昔から猫が多いそうだ。ネコ グッズの店が多い。何も知らないで歩くのも感激があり、想像力が働き、また来るぞと犬がおしっこをかけて歩く気分で振り向き振り向き歩くのはとても楽しい。

 谷中の本屋でこの辺のこと勉強するよい本ありますか?」と聞くとおじさんは「ザ・この本です」 ザとは言わなかったけれども、これが森まゆみさんの”谷中スケッチブック!”と本を振り上げて持ってきた。
ウーンなるほどなるほど。そして”路地の匂い 町の音”を読む。
 
 下町発見。森まゆみさんは素敵な人だ。彼女の心意気に 「そうか!こういう人もいるのだ!」と嬉しくなった。心から敬愛しちゃう。有名でない普通の人が好きというのは何十年も感動してきたアメリカで学んだ私の価値観と同じだ。コミュニティを考える人は日本人では少ないのではと思っていたけれど、今の時代、彼女の愛情に支えられた町だとおもう。素敵な貢献をしている。
 前から日本に住んでいたら彼女の自転車の後ろについて谷中めぐりをしたかった。残念だ。
 これから彼女の文献の後を追って谷中を堪能したいと思っている。森まゆみさん、あなたはすてきです。ありがとう。
 「森まゆみさんという人はすばらしい!」と友人に電話をかけ回ったら森まゆみさんを知らないのは私だけだった。 本当に恥ずかしい。ごめんなさい。

 でも心は躍る。
森まゆみさん、ありがとう!あなたの足あと
をたどって歩く楽しみは日蓮上人のご縁があるかも。谷中に住むようになったのは人生最大のプレゼントだと思う。



谷中は猫が多い。可愛い声で寄ってくる。        ニューヨークでは週末猫愛好家に貰い手を探している。

ニューヨークのレストランとの広告マン        パークアベニューのインスタレーション:キティちゃん

江戸の町に時にはかっこいい新しい看板もある。三崎坂にて。  ニューヨークのアーチストのアトリエの前ににて



お知らせ:

小林恵のラグ・デイ実験教室
手作りはストレス解消にもなります。誰も私に関心を持ってくれないと悩まないで、手作りで自己主張をしてみましょう。150年前からアメリカ人は必要と機能を兼ねてキルトやラグを作りました。
集まって作る。この手作りが開拓時代に必要であった助け合い、コミュニティの集まりが社会現象となってアメリカで花咲きました。
名もない人の手作りが今も人々の心を温めてくれます。匠の世界は日本の宝です。しかし時間がない。すでにほど遠ーい世界!
 ”誰でも作れる” "貴女らしさ” を発揮し、表現することは楽しいことです。評価は自分でしましょう。アメリカらしい自由さでラグ デイに参加し、楽しみながら作り皆で励まし合いましょう。


ラグ デイ お問合わせはホームスパン 03-5738-3310 原、稲船まで

 


「無縁社会」

2011-02-14 05:55:01 | 暮らしのジャーナル

写真はパートーナーがいないと嘆かず鳥かごと一緒に楽しく踊る人。

恐ろしい無縁社会
 先週 NHKの番組、無縁社会をみました。なんとも暗い心の痛む番組でした。有名人を評価し、名もない人を無視し、落ちこぼれを軽蔑するする傾向が日本にはありますが、長い間日本を離れていたためか、日本の暗さにふれ、皆で考えねばならない愕然とする重要な問題でした。ここにフォーカスを当てて番組を追ったのはある意味では素晴らしい問題提起の番組でもありました。
 しかし、次の日の討論でも皆で考える番組として追ったのはよかったと思いますがなんとも言えない暗さが残りました。食べ物ばかりに時間をとらず公共放送として人間の尊厳に関する良い番組を続編にしてほしいと心から願っています。

 半世紀近くニューヨークに住みました。
「日本に帰ってきたらアメリカを日本に持ち込まないこと」と忠告をしてくださった友人がいました。日本は日本だというある意味では、納得できる忠告です。
 
 アメリカにもたくさんの問題がありますが、私がアメリカで学んだ大切なことは大きくいってヒューマニズムであること。価値観に上下を持たないこと。何であれ一生懸命やることを評価すること。人の才能をうらやましいと思わず出来ることを励ますこと。アイデアや創造力を称賛すること。
”あなたはできる”とそれぞれの立場で激励すること、そして小さなことでも感動するいい話が日々の暮らしの廻りにたくさんあることです。

 「成功の反対語は失敗ではありません」と身体障害者の学校の先生が足の指のチョークを挟んで黒板にメッセージを書いている日本の先生、「反対語はやらないということです」という話しが日本の新聞に出ていました。この話をアメリカ人にすると「素晴らしい話だわ」と感動します。今でも「ケイから聞いたいい話」
とアメリカ人が言い、口コミ宣伝になっています。

 5体健全でない方々が身体健全者よりも立派に生きている人がたくさんいることを私たちは忘れたくありません。寂しい。私は社会に必要とされていない。誰からも愛されていないと思うのは同一民族である日本人の、誰かに助けてもらいたいという甘えの構造があるように思えてなりません。
 冷たいようですが一生懸命生きているでしょうか。
やさしい問題でありませんが、両親を責め、会社を責め、社会を国を責めるばかりの問題ではなさそうです。大切な公共放送は生きることを、生き方を、生きるメッセージをもっと追究し欲しいと思いました。

日本の社会問題を、改めて考えさせられる番組でした。

「写真:社会と縁を自分で作る一生懸命生きるニューヨーカー
写真の楽器は自分で作ったとか。


お知らせ:
手作りはストレス解消にもなります。誰も私に関心を持ってくれないと悩まないで、手作りで
自己主張をしてみましょう。150年前からアメリカ人は必要と機能を兼ねてキルトやラグを作りました。
集まって作る。この手作りが開拓時代に必要であった助け合い、コミュニティの集まりが社会現象となってアメリカで花咲きました。
名もない人の手作りが今も人々の心を温めてくれます。 ”誰でも作れる” "貴女らしさ” を発揮し、表現することは
楽しいことです。アメリカらしい自由さでラグ デイに参加し、楽しみながら作り皆で励まし合いましょう。

ラグ デイ お問合わせはホームスパン 03-5738-3310 原、稲船まで


「日本で思うこと」

2011-02-11 00:44:17 | ニューヨーク暮らしの日々

「過去と今」 日本でおもうこと
 ニューヨークのアパートから、中庭ごしに見えるカソリック教会の美しい眺めはどんなにか私の暮らしを豊かにし、創造力を育んでくれたことか。

 1902年に建てられたローマンカソリック教会の青銅とスレートの屋根に降る雪。
屋根の上に登る三日月。霧ににかすむ屋根。雨に濡れる屋根。 屋根の上の空。雲。
そして夜、大きい薔薇窓のステンドグラスが暗闇に美しく輝く時、ニューヨークで住んでいる幸せを感じる。
人々の日々の暮らしから、生きざまから日々感激することが多く、やりたいことがたくさんありすぎ47年が
夢のように過ぎていった。

 ところがふとした運命的なご縁で谷中のお寺の前にある一軒家をみてすぐ帰国を決心、その6ヶ月後に
私は日本に住むことになった。
窓から眺める景色はない。しかし谷中はお寺の町。しかも日蓮宗のお寺が多い。熱心な日蓮宗の信者で
あった母から般若心経や日蓮のことを聞かされて育った子供時代を考え、不思議な思いに浸っている。

「日本のやさしさ」


 ここ数日地図を片手に谷中を歩く。森まゆみさんの“谷中スケッチ”(筑摩書房)を読む。
副題はー心やさしい都市空間ー 
江戸のある町。日暮らしの里。寺、寺、寺。坂と路地。この地区がこれほど古い町とも知らず、もちろん歴史も知らずなので驚きも抜群!散歩も退屈しない。この町の住人で駅の向こうのことはほとんど何も知らない人がいるという嬉しい町だ。これからどっぷりと浸っていこうと思う。

 お寺の門をくぐると一番近いところにお地蔵さんが並んでいる。檀家の誰かが作ったのだろうか。
新しい帽子と前だれ。お花も添えてある。やさしい日本の風景だ。色あせたぼろぼろの赤い帽子、
風化して繊維だけが残っている前だれもある。みな実にいい顔をしている。誰が彫ったのだろうか。
一人前になるには6年ぐらい山での石の切り出し仕事、仏の顔がうまく彫れるようになると
石工は近いうちの死ぬ、仏が呼ぶのだという言い伝えがあったとか。胸が打たれる話だ。
谷中の美しさは、死ぬまで精進した人たちの作った町といえるのだろう。

「日本の戸惑い」
 半世紀近く日本を離れていると自分証明のためにどこでも印鑑が必要になる。
「え?自分を証明するために印鑑が必要なの?印鑑が本人より重要なのはなぜですか?」
「はい、規則ですから。サインでは認められません。ハンコは100円均一でで売っていますよ」
という。100円で自分を証明しなければならないのはおかしいことだ。ハンコ1つで財産も動く。
 21世紀、ハイテックを誇る日本での摩訶不思議の一つだ。
 

 お知らせ:
ホームスパンにて 小林恵を囲んでラグ デイ 開催
初めての方、続行したい方、集まっていろいろな方の才能を伸ばしお互いにラグ作りを学ぶ集まりです。
ラグを作りたいあなたが主役です。
問い合わせ:ホームスパン 原、稲船まで, 03-5738-3310