小林恵のNY通信

NY在住47年、2011年より東京谷中に居住。創造力をのばすためのエッセンス、スパイスをいれた私の暮らしの手帖です。

庶民にも根ずく日本の伝統: 家紋

2014-03-31 13:34:46 | 暮らしのジャーナル

 

どこにでも転がっているグッドデザインのメッカ・日本

 ニューヨークに訪ねてくる日本人の多くは 「日本は本当に特別でユニークですから・・・」という人が多かった。
そのたびに 「そうかしら」 と考えることが多かった。しかし
3年前ニューヨークより帰国して考え込むことが多い。

 日本中どこにでもあるグッドデザインは、背中を見て一生をかけて到達した人たちの無駄のない匠の世界に裏付けられている。

 今私は谷中に住んでいる。谷中の面白さは庶民の町であることだろ。お寺や墓石に見る日本の紋章デザイン、極限まで簡素化された美しいデザインの数々に感動する。

本で見るだけでなく、実際の生活に溶け込んだ家紋のデザインが墓石に刻まれてある。谷中の墓めぐりは楽しい発見の散歩だ。

オリジナルサイズオリジナルサイズ

 複雑なデザインよりも単純なデザインの方が注意を引く。紋章は国や風土、歴史など象徴的なデザインで表現され、外国ではライオンや一角獣、双頭の鷲などロイヤルデザインは命を懸けて複雑で手の込んだものがおおい。
西洋では都市や騎士団、修道院やギルドなどの特殊階級だけ家紋を使用した。日本の家紋は、13世紀はじめ貴族の牛車を識別するためにつけられ、一族の紋章は厳格な階級制度の産物でもあった。平安時代、公家社会に起こり武家社会に広まり、一般庶民の家紋になったのは江戸時代後明治になってからだという。日本の家紋には411種類以上、5,000以上の種類があり、現在では2万近くあるとのこと。

 日本の家紋ほど単純で明快なイメージないと思う・ 谷中は江戸時代の庶民の町なので豪華版はない。法華経のシンボルが橘とわかって以来、何度も歩くお寺の墓の家紋をあらためて絞り見て歩いた。

 よく見ると墓石の家紋が凸で彫ってあるもの、凹はどうも古い墓石にはないことに気が付いた。まだ谷中にたくさんある石屋さんに聞いてみると、凸は家紋のデザインばかりでなく墓石平面全体を削らねばならないので高価になるので現在は誰も作らないという。各家族の手うち水桶にはどの桶にも家紋がついている。家柄を誇るよりも牛車の識別と同じようにわかり易いというシンボルの効用だとおもう。すごい!やはりユニークと言える。



冬に咲く花

2014-03-02 19:59:27 | 東京の日々

椿大好き

 嫌いな花はあまりないけれど寒い冬に咲く花椿は大好きな花だ。花弁がついたまま花が朽ちる前にパタンと落ちる様も小気味よい。
落ちた椿を拾い水を張った大器に浮かべても美しい。 

 19世紀、アメリカのお金持ちは冬に温室を持ち部屋中花を飾った。当時珍しかった椿が輸入され、椿御殿がいろいろなところにある。
居間の北側の小さな庭の垣根は椿。隣の大家さんの庭の椿は日当たりが良いので雪が降った後でも真紅の椿がたくさん咲いている。

 私には悪癖があり、乱れ咲く花を手折る癖がある。 もちろん鉢植えのものや手入れして育てている花には手を付けないけれど、無数の花が咲いていると
手の平に入るぐらいの短さで折って鞄に隠す。勿論前後左右を見ながら、2階のどこかで見ていないかも確かめ、だれも見ていないのを確かめ花をかざして一礼してくる。

花やでは買えない一輪が部屋を明るくし、数日 「きれいねー」 と声をかけながら 私に褒められて一生を終るのは逆に花も幸せなことだと思う。

「われが名は花盗人と立てば立て  ただ一枝は折りて帰らん」 とは泉式部集」の恋の部、藤原公任の歌だそうである。桜の枝の美しさにひかれて一枝折っても愛でるがあまり、咎めるようなことはないだろうと解釈された。(この歌は夜這いの詩だとのこと)

しかし花泥棒は判罪です。器物障害罪または窃盗罪。 路地を歩いていると見ているゾ!と壁紙が貼ってある。

日暮里の西口の御殿坂を上ると小林一茶が旅立ちの折、いつもこの寺に宿泊して江戸を離れたといわれている本行寺がある。門をくぐると見たことのない丸いキンカンに似たオレンジ色の丸い実がたくさんさんなっている。何かしらとにおいをかいでみた。あまり香りはない。一つちぎって皮をむいてみると小さなミカンそっくり。ひとふさ食べてみて飛び上がった。 酸っぱい! 私は酸っぱいのものが大嫌い。すぐ吐き出して門の横にある屑箱のふたを開けようとした途端 誰もいなかったはずなのに門の横の手洗いのあたりから 「寺のものを盗んではいけない!」と太い声がかかり、飛び上がるほど驚いた。

「スミマセン! 初めて見たのでなんだろうと味見してみました。これはなんでしょうか?すごく酸っぱいですね」というと 「橘です」 と顔を出さないで建物の裏から、ついで 「法華経のシンボルです」 と低い声が返ってきた。
ナント法華経のシンボルを盗み喰いするとは・・・・やはり「誰かが必ず見てるゾ」と谷中の路地に書かれた張り紙を思い出しながらヘイシンテイトウ 「スミマセン」 と言いながら捨てた。合掌。


 たわわに実る橘の実         法華経のシンボルマーク・橘             日暮里谷中の本行寺      ” ただ一折はおりて帰らん” 犯罪を犯した美しい椿   本当にみられていた!谷中の路地に貼られているチラシ