「アメリカンキルトから学ぼう」
まだ日本にキルトの本当の意味が紹介されていなかった1980年
の初めに、私は「アメリカンパッチワークキルト事典」を文化出版局
出版した。「アメリカンキルト」(白水社)にはキルトとアメリカ人の暮ら
しを書いている。あれから20年以上の月日が経ち、キルトとは何かと
説明する必要がないほど日本にキルトは浸透している。
手造りが暮らしの基本であった頃、倹約精神から使用可能な布地
を継ぎ足し、寒さをしのぐためにベッド掛けが作られた。19世紀の終
わり産業革命が起き、アメリカコットンが安く手に入るようになってか
らアメリカ中にキルト作りが流行した。ただ作るだけでなく寒さをしのぎ、
部屋を美しくする目的と機能を兼ねていた。 そして病む人には皆で
作ったキルトを贈り、教会の資金調達や遠くへ移住する人には心を込
めて作られたキルトが贈呈された。
コミュニティの相互扶助のためにキルトを通して集まりを持ったこと、
お互いに助け合った開拓時代のこの協力がアメリカの伝統となり現在
でも育まれていることがアメリカンキルトの基本精神になっている。
布地の素晴らしい伝統を持つ日本で、現在、美しいキルトが沢山作ら
れている。しかし、実際のところ多くは展示会のために作り、部屋を美し
くする目的でもなく、協力の結果出来たものでもなく、押入れに眠ってい
るのが現状のようだ。 お互いの競争や、ビジネスになっていることは
一つの発展する動機になり喜ばしいことだと思うが、最もアメリカらしい
もの、キルトに込められた本当のアメリカ精神をキルトから学んでいるだ
ろうか?
アメリカでは重い荷物をも持っている人には助けの手が伸び、席はす
ぐ譲られる。日本の若者は年寄りを前に立たせて眠りこけ、重いものを
持っている人を押しのける。 注意すれば殴られる。寂しい日本だ。
今の日本は協力し輪を作ること、助けあうことを忘れたのだろうか。
最近の問題、子供のイジメの本質は大人たちの社会の反映のような気
がしてならない。
参考 小林恵著: 「アメリカン パッチワーク キルト事典」
http://books.bunka.ac.jp/
「アメリカン・キルト 草の根で社会を動かす針と布」
http://www.hakusuisha.co.jp