散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

北海道栗山町の議会基本条例~アーレントの「公的幸福」を表現

2014年02月07日 | 政治理論


「北海道栗山町議会が2006年5月、全国で初めて議会基本条例を制定してから7年半余り経つ。今では450を超える自治体議会が制定している。…しかし、その魂は本当に伝わっているだろうか。…栗山町の条例の核心は何か、もう一度検証しておく必要があるように思う。」(『日経グローカル No.235 2014. 1.8』)

これは、福嶋浩彦中央学院大学教授の言葉だ。一方、筆者は最近、映画「ハンナ・アーレント」を観て、幾つかのことが想い浮かんだ。その中で、アーレントの主著の一つ「革命について」(中央公論社)に関する永井陽之助のコメントを紹介した。
 『ハンナ・アーレント(3)~「革命論」に対する永井のコメント20131125』

アメリカ革命は市民の生命・自由・財産権などの消極的な保護を制度化しただけではなく、積極的に市民が政治に参加するという「積極的な自由」を保障した。公共の領域で、市民が討論と決定に参加するような共和国を創り出そうとする処に革命の使命を見たのだ。それは何よりも先ず、“政治革命”であった。

アーレントのアメリカ革命に対する認識に、比肩するような日本の政治事象は何かあるのだろうか、とその時、考えを巡らしたのだが、そうだ、栗山町議会基本条例だ、と思いついた。

その前文は不朽の作品と言って良い。「…自由闊達な討議をとおして、自治体事務の立案、決定、執行、評価における論点、争点を発見、公開することは討論の広場である議会の第一の使命である。…」

自由闊達な討議、論点・争点の発見、討論の広場、これが議会のキーワードだ。これはまさしく、公共の領域で、市民が討論と決定に参加する共和国を設立したアメリカ革命の精神に対応するものだ。

アーレントは「…公的幸福は公的領域に入る権利、公的権力に参加する市民の権利、にあった。公的権力への参加を主張するために「幸福」という言葉が選ばれたという事実は、公的幸福が既にこの国に存在していた…」と述べる(「革命について」P134)。
一方、福嶋氏は続けて、栗山町議会基本条例の特徴を指摘する。

栗山町議会基本条例は、議会は「議員による討論の広場」であり、「議長は、町長等に対する本会議等への出席要請を最小限にとどめ、議員相互間の討議を中心に運営しなければならない」と定めている(第9条)。まさにこれが、いま自治体議会に求められる最も基本的な運営であろう。

さらに栗山町議会基本条例は、議会を「議員、町長、町民等の交流と自由な討論の広場」と規定している(第2条3項)。
議会が意思決定機関ならば、その意思決定の場にこそ、住民は参加の権利を持たなければならない。議員間の討議の場へ住民が参加することが重要だ。また、議員は、自分の支持者でない住民と公式の場できちんと向き合って議論することがとても大事だと考える。それによって議員の質が高まる。

こうした機関としての議会への住民参加が必要であり、住民が議会の正式な会議に正式に出席して、議員と侃々諤々の議論をすることが重要なのだ。栗山町議会では、本会議と委員会以外に、町民と議員が議論するための「一般会議」を議会基本条例で設置している(第4条2項)。

また、全国で最初に、全議員による町民への議会報告会を開いた。決定者として町民への説明責任を果たすとともに、町民とさまざまな意見交換をしている。住民が、請願・陳情を議会に提出した際に、その審議の中で住民自身が請願・陳情の趣旨を説明し、議員からの質問があれば住民が答え、議員と議論する。

栗山町の議会基本条例では、「議会は、請願及び陳情を町民による政策提案として位置付けるとともに、その審議においては、これら提案者の意見を聞く機会を設けなければならない」(第4条4項)としている。このポイントは、住民の権利として参加を定め、議会に義務付けたことだ。

これからは住民、議会、首長、行政職員、あらゆる人々の対話により、新たな地域経営に向けた合意を生みだすことが大切になる。議員間の開かれた討議と住民の参加によって、その合づくりをリードできる議会こそ、次の時代の自治を拓くだろう。
議会が「公的幸福」を創造する場であること、それが今後、ますます求められることを示唆している。

      
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