散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

イスラム世界は平和が例外事象~ノーベル平和賞・チェニジア市民団体

2015年10月12日 | 国際政治
ノーベル平和賞は2011年、チェニジアのジャスミン革命によってベンアリ政権が崩壊した後、平和的な政権移行に貢献した「国民対話カルテット」に贈られた。チェニジアはアラブの春の先駆けとなり、民主的な手続きによって、新憲法制定と大統領選挙を行った国だ。

革命後における“権力の真空”状態は、その奪取を巡って特に過激派、強硬派が台頭し、オポチュニストがその周囲を跋扈する。チェニジアでは依然としてテロが起こり、平穏だとは云えない。イスラム国へ走る若者も多くいるということだ。その危うい政治体制に危惧を持たれる面もあり、受賞を意外視するマスメディア報道もある。

しかも、下図に示される様に、革命を起こした他の国の状況は国内対立の激化である。特にシリアでは、イスラム国が台頭し、政権、反体制派と三つ巴の闘いになり、米ソの介入を伴って、国際的内戦の様相を示す。

 
 毎日新聞(2015/10/10)

しかし、受賞理由にある様に、革命後の不安定な状況の中で、4団体はあらゆる声を代弁し、政党、宗派を仲介した。これによって多元的な民主化に大きく貢献し、チェニジア以外の人々にも民主化の一つのモデルを提起した。

4団体とは、チュニジア労働総同盟、産業貿易手工業連合、人権擁護連盟、全国弁護士会で、2013年に設立された。イスラム勢力と、政教分離を重視する世俗派の双方の議員や有力者、支持者らを説得して対話を仲介。対立を抑制し、今年2月に双方が政権に参加する形で正式政府が発足した。

1978年、イラン革命と米中国交正常化を含むこの年が、戦後政治の一大転換期であると、永井陽之助「時間の政治学」(1979)の『あとがき』で述べられている。これにソ連の崩壊=ロシアの再興が1989年に加わり、グローバル化世界の中で、対立と戦乱が相互作用を引き起こしているかの様である。

イスラム世界は宗教戦争の中で、平和が例外事象となっていると云って過言ではない。そこで、平和に向けた創造的活動は極めて困難な道を歩み、それ故、その実績が高く評価される。

従って、その例外事象の中から今後の進むべき道筋を見出し、平和の構造を創りあげていくことは、世界的な稀少資源になるのだ。その意味で今回のN平和賞は、政治的タイミングとして見事である。

それと共に、その政治的実物過程を明らかにし、対話・交渉の内実を分析することが専門家にかせられた課題と云える。「中東・イスラーム学の風姿花伝」において、池内恵・東大准教授は如何なる論評を展開するだろうか。


      
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