散歩から探検へ~政治を動かすもの

自己認識の学・永井陽之助の政治学を支柱に、自由人による主体的浮動層の形成を目指し、政治状況の認識・評価・態度を語ります。

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「平和の代償」に顕れた永井政治学のスタイル~“あとがき”を読む

2015年08月22日 | 永井陽之助
この“あとがき”の中に永井陽之助の学問に取り組む姿勢が明確に読み取れる。
これまで、政治意識を中心に研究していた氏が専門外の国際政治学の領域で最初の単行本を出したことを、「奇妙な巡り合わせ」と、先ず述べる。

単行本を出せた理由は、最後に「書き無精の私を叱咤し…論文を書かせた…粕谷一希氏の、異常な熱意と協力…」と、謝辞の中で触れている。この人との繋がり方、旧制二高時代の兄・成男との論理実証学の議論、若き気鋭のドイツ語教師の影響、後年の「孤独な群衆」の著者であるD・リースマンとの交流などと同じだ

付き合いのなかで、“師”と感じた人と深く交流し、影響を受けることを厭わない態度、そこから思考方法、知的態度を磨いていく姿勢は編集者・粕谷氏に対しても変わりはない。永井の研究スタイルと深く関係する様に思われる。

国際政治学に取り組んだ理由は、米国滞在時(1962/4-1964/9)に、キューバ危機に直面した時の衝撃による。
衝撃に直面し、その危機が回避された後、「私は次々と押し寄せるてくる疑問と自問自答しなければならなかった」と述べる。そこで永井がとった行動は、「…狂ったように資料を漁り、できる限り多くの専門家に会って意見を聞いた」ことだ。

「疑問が湧き、それに対して資料を探す」ことは、学者の通常の行動である。しかし、それが専門外の国際政治に関して「本格的に研究しなければならないと痛感」したことには、事件の大きさだけではなく、衝撃の大きさと共に衝撃を素直に受け止める永井の感受性の深さを顕わしている様に感じる。

「次々と押し寄せるてくる疑問と自問自答」と「狂ったように資料を漁る」との表現は、永井の感情の高ぶりを示す表現であろう。学生であろうが、議論を始めると、云いたいことが溢れ出てきて、それを言葉に出すことを押さえられず、独壇場の議論になることは、それほど多くはないが、見受けられた。

しかし、「平和の代償」を書いたバックグランドにある主要な文献の題名を見れば、2005年ノーベル経済学賞受賞のトーマス・シェリング、現実主義的アプローチを示すスタンレー・ホフマン、紛争の原因を理論化したケネス・ウォルツなどの著名な学者を含めて、日本語17冊、翻訳15冊、外国語(未翻訳)35冊が簡潔な説明と共に紹介されている。
 『「文献解題」に国際政治学の古典が並ぶ~「平和の代償」に学ぶ140202』

短期間に国際政治の学問的基礎を学び、キューバ危機及びその後の国際政治の状況から得られた課題に沿って、自らの関心を整理し、国際政治学者としてもスタートしたのだ。自らの内部から生じた問題意識に従って、新たな学問対象に極めて集中的に取り組んだ姿勢に、永井の研究スタイルが顕れている。

更に「資料漁り」と多くの「専門家研究者」との対話を進めるなかで、「私はつくづく、自分の無知を恥じた」ことを吐露する。
即ち、「ミサイル・ギャップという魔術的な言葉と、スプートニク依頼の日本の新聞の論調にいつしか惑わされ、少なくとも米ソ間に核均衡があるかのような錯覚に陥っていた自分のうかつさに腹が立った。」と自省する氏の姿がある。

この様に騙されたと感じたとき、人はこれを騙した他人のせいにし、その他人に腹を立てる。あるいは、惑わされたとは考えず、自分に都合の良い情報を信じて、新たな真実を否定する。否定をしなくても適当に折り合いをつけて誤魔化す。学者・知識人にはこの類いの人は珍しくない。

そうではなく、永井は自分自身に無知を感じ、そしてその自分に腹を立てたのだ。そこに永井の知的な誠実さと、自らの思考の過程を検証する方法論を内在させた研究スタイルが顕れている。それは本ブログの冒頭の記事における以下の言葉、“自己認識の学としての政治学”と響き合っている。

『われわれが深い自己観察の能力と誠実さを失わない人であればあるほど、自己の内面に無意識的に蓄積、滲透している“時代風潮”とか、“イデオロギー”や“偏見”の拘束を見出さざるを得ないであろう。その固定観念からの自己解放の知的努力の軌跡こそが政治学的認識そのものといっていいだろう』。
 『序にかえてー追悼の辞~永井政治学に学ぶ110502』


      
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