原宏一「ファイアーボール」PHP文芸文庫2012年刊
築地を舞台とするホームレスの活躍を描いた「やっさん」の著者原宏一の作品。今回の設定は社内の派閥争いから弾き飛ばされ、リストラ間近の商社マンが町内会の役員に組み込まれ、祭りの再生に取り組むというもの。
この人の人間を見る、どこか温かく前向きな視点が、物語をスムーズに展開させてゆく。冷静に考えれば、リストラ直前の人間がこんなに悠長に町内会のお祭りに関わっていけるはずはないのだが、牽強付会というべきか、ホームレスが築地仲卸の人々に尊敬されるという設定と同じように、興味を繋いでゆく筆力は面白い。
「三匹のおっさん」の有川浩、半沢直樹シリーズの池井戸潤をミックスしたようなストーリー展開でエンターテイメントとしては十分楽しめる。ここまで祭りにのめり込む心理状況がもっと書き込めたら最高だと思うのだが、それは求め過ぎだろうか。
秋の夜長を楽しむに適当な一冊だと思う。
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