吉田修一「怒り」中公文庫2014年刊
八王子で起きた夫婦惨殺事件を柱に、その後一年経った頃、東京、千葉(房総)沖縄の離島(波照間)の3箇所に現れた、過去が定かでない3人の男が物語を繰り広げる。それぞれLGBT(性的少数者)、漁協に勤める父と娘、夜逃げを重ねる母娘の周りに立ち現れる。
普通より少し不幸な境遇にある家庭にふらっと現れる過去をはっきりさせない男。難航する警察の犯人捜査。ここらあたりの設定が次第に不安になってくるところが作者の設定のうまさだろう。3つの場面がそれぞれ平穏に進行してゆくが、登場人物が事件捜査の強力TV番組を見て、ふと不安になるところから物語は急展開する。
著者の感覚は若い人の傷つきやすい微妙なセンシビリティを捉え、細かい感情の襞を描き出す。傑作と言って良いのではないか。最終決着が少し物足りない気もするが、とにあれ引っ張ってゆく。人を信じるということは何か、と考えさせられた。
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