山本周五郎「おさん」新潮文庫 昭和45年刊
借りていた佐伯泰英の「密命シリーズ」を大分前に読んでしまったので、この頃はもっぱら山本周五郎である。
ちょっと癖のある、決して明るいとは言えないが、信念を持っている人間を描く作者の力量、人生観に共鳴することが多い。
本編は、色々な可愛い女性を描いている。必ずしも主人公として登場はしないが、取り上げられている10篇の主題は女性の生き方を描いている。
色々な側面があるのだなあ。さすがプロの作家だ。
表題作「おさん」は、躯の相性に目覚めた妻を持て余した男が、一時上方に行くが、留守中耐え切れなくなった、おさんは男を渡り歩く。情欲に翻弄される様は、失楽園を思い出させるほどだ。人間の生き様のやりきれなさを描いて余すところがない。他の小篇では、カラッとした女性、一方的に男に惚れ抜く女性、自由奔放・わがままな人、など色々なパターンが登場する。
女性経験が少ない私には、羨ましいような珍しいような世界である。
だが、概ね登場する男は、いなせな職人で、女性にモテる。勿論そうでない男が喜劇仕立てで出てきたり、出世欲に駆られた男が昔のことをすっかり忘れてしまうというケースもある。が概ね一角の人物である。どうしようもない男の面倒を見る、という筋立てはない。
いろいろな女性を紹介し、作者は押し付けがましくなく、それぞれの生き方を問うているようだ。
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