浅田次郎著 集英社刊
2010年の7月に発行されたこの本は、反戦の書であると言って良い。
戦時下の東京、疎開先、召集兵の日常、などをかなり綿密に描写する。
下巻は主として、千島列島の北の果て占守島へ配属された翻訳家の老兵、手の指
を失った歴戦の鬼軍曹、帝国大学へ進んだ医者、の3人を中心に描く。
疎開先から脱走し、自宅へ向かう小学生、密かに終戦処理の準備をする占守島へ
きた大本営の参謀。缶詰工場へ勤労動員された函館の女子学生達が彩りを添える。
我々は北方四島などと言っているが、戦前はそのはるか北、カムチャッカ半島の
すぐ南まで日本の領土だったのだ。その最北端の島が占守島だ。そして敗戦。皆ががっかりするのと、心の隅で
「よかった」と感じる複雑な気持ちを、描く。確かに終戦を告げる玉音放送は、
雑音が多く聞き取りにくかったろう。
しかし、北の島では戦争は終わらなかった。ポツダム宣言受け入れを表明してか
ら3日後に突如、ソ連軍が攻めてくる。武装解除を経験豊かな老兵の勘でためらっていた、日本軍は果
敢に応戦する。この辺りの描写はロシア誤訳をして、ロシアで発刊したら、いい
のではないかと思う。確かに前線のロシア兵だって、不可侵条約を破って侵攻し
たり、降伏している相手に攻めかかるなどは、後味は悪いのに違いない。
とはいえ、満州に侵攻してきた、ロシア兵は、略奪、暴行を平気でしていたと、
母親から聞いたことがある。当時の彼等に倫理観は小説のようにはなかったのだ
ろう。
反戦を説く筆者の語り口は確かである。説教的でないのでかえって説得力がある。小説家
ができる世の中を動かすことの好例のように思う。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます