重松清「とんび」角川書店 平成20年10月刊
やっと私の番が回ってきた。図書館で貸出中だったホリエモン推奨の本。男の生き方、親父のあり方について、ちょっと不器用な人間が、肩肘張って、喧嘩をしながら、周りとも、子どもともちょっとした摩擦を繰り返しながら生きる姿を余すところ無く描く。フーテンの寅さんよりちょっと男っぽく、トラック野郎の文太兄いに近いか。人柄故に周りに集まる暖かい人達にかこまれ、ちょっと意地っ張りな主人公が、最愛の奥さんに突然先立たれ、男の子と二人で生きてゆく。この男の子が頗る出来が良い。父一人小一人の世界で、父と同じように言葉ベタだが、愛情がいっぱいという役回りだ。
この作家の名前は平凡だが、描く世界は濃密で、愛情があふれている。気持ちはあってもつい意地を張り、知らん顔をしたり、つよがりを言ったりする人間関係の綾が絶妙であり、泣かせる。あのクールなホリエモンが号泣したというのも理解できる。ストーリーは目をむくほどではないが、きめ細かな状況描写が素晴らしい。映画で言えば「マジソン郡の橋」のように、脚本が優れた作品である。
私も久々に泣いた。
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