朝井まかて「ちゃんちゃら」講談社文庫 2010年刊
このところ気に入っているまかての時代小説である。前書「すかたん」は大阪商家に入った武家の嫁が、そこの御寮さんに厳しく躾けられる物語であるが、今度は元浮浪児が庭師に弟子入りしての話である。著者の本分は活劇の描写ではなく、日常の生活でのやり取りであるのでその辺はあまり触れないでおいて、職人の親方の描写が素晴らしい。
いかにもありそうな生活ぶりと考え方である。この親方自身が修行した京都の庭師の家で覇を競った若い弟子が、別派をなしてライバルとして現れる。その強引なやり口と争いに巻き込まれてゆく主人公の意地と葛藤がこの小説の大きなテーマである。
主人公の友人との淡い恋の鞘当て、尼僧の毅然たる生き方など、読みどころはいろいろあるが、いつもながらその現場にいるような筆力に楽しませていただいた。庭師の世界もかなり深く取材しないと薄っぺらくなってしまう。作家も随分勉強されたのだろうとそんなところにも感心した。
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