とうとう映画館で岡本喜八監督の「殺人狂時代」を観た。
結論を言えば期待値以上では無かった、この監督の作品としてはちょっと物足りないし思ったほどのブラックさは感じなかったが、そこそこ面白くて仕事を抜け出して観た価値はあった。
〔内容〕
ある日突然殺し屋から狙われることになった大学教員の桔梗信治(仲代)、どたばた逃げ回りながら追手の殺し屋たちを次々にやっつけてしまう。追手は殺人を請け負う秘密結社で元締めはマッドサイエンティストの溝呂木(天本英世)、依頼人は元ゲシュタポのドイツ人で、展開が進むにつれて桔梗の秘密が段々と判明することになる。
天本英世氏はこういうマッド・サイエンティストを演じさせたら天下一品、そういえば岸田森氏もこんな感じで好きだったが。
この岡本喜八監督のカルト映画中のカルト映画「殺人狂時代」は、面白ミステリーの元祖、都築道夫の「なめくじに聞いてみろ」が原作で、元々、日活が宍戸錠で映画化する予定だった脚本が、巡り巡って岡本喜八監督のところに回ってきたという、いわくつきの作品なんですね。
したがって、活劇路線の日活と岡本喜八監督のテイストが融合した、なんとも東宝カラーに合わない"面白映画"の誕生となったわけです。
ところが、完成された作品が、あまりのカルト性のため、案の定オクラ入りとなって、7,8カ月後にひっそり公開という憂き目にあっているんですね。
とにかく、都築道夫の大ファンを自認する岡本喜八監督としては、キャラクターからディテールまで凝りまくった、モダン・ハードボイルドとも言うべき快作なのですが、時代を先取りし過ぎたところが、理解されなかったのかも知れません。
偏執狂患者を暗殺者に仕立てる「大日本人口調節審議会」なる謎の組織に命を狙われた男が、日常品を武器に撃退するアクション・コメディ仕立てで、岡本喜八監督が大いに遊びまくった痛快作だと思います。
主演の仲代達矢のとぼけた三枚目ぶりや、団令子のお色気、がらっ八的な子分役を演じた砂塚英夫に、暗殺団のボス、溝呂木博士を怪演した天本英世など、まさに奇想天外なお話を、キャラクターの掛け合いでグイグイと引っ張る戦略が見事に功を奏し、ダンディズムとモダンが融合した、笑えるハードボイルドになっているところは、岡本喜八監督ならではのうまさだ。
この映画はまた、モンキー・パンチの「ルパン三世」に大きな影響を与えたことでも有名で、スタイル的には都築道夫なのだろうが、峰不二子のルーツは、間違いなく団令子だろう。
今頃岡本喜八監督に夢中になっておりまして、この監督の映画の掛かる映画館をマークしてます。
この映画は確かに変わった作風の映画で、もう一度見たらもっと面白いかも知れません。