自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★優しきジンベイザメ

2017年09月16日 | ⇒キャンパス見聞

   学生・留学生と巡る「能登の世界農業遺産を学ぶスタディ・ツアー」の3日目。最終日のテーマは「里海の生業と生物多様性だ。能登町のリアス式海岸、九十九(つくも)湾に日本有数のイカ釣り船団の拠点・小木漁港を訪ねた。一般社団法人・能登里海教育研究所の浦田慎研究員から、イカ釣りの生業(なりわい)について講義を聴いた。「一尾冷凍」のニーズに取り組んだ進取の気質、イカ釣りという里海資源に配慮した漁法など印象に残る内容だった。この後、サプライズがあった。浦田研究員から「それではイカの冷凍庫がどのようものか見学しましょう」と提案があった。小木漁協の好意で冷凍庫を開けてくれるというのだ。「どうぞ」を漁協の職員が入るように促してくれたマイナス28度の空間、半袖で入ったせいか数秒で身震いが始まり、外に出た。するとメガネがいきなり真っ白になった。ハンカチで拭いても、また真っ白に。こればかりは数字では理解できない、体験して初めての実感だった。

    学生からさっそくこんな質問が飛んだ。「冷凍庫に冷凍イカを出し入れする際にどのような服装で入るのですか」と。すると漁協職員は「普段着ですよ」と。冷凍イカは箱詰めされていて、フォークリフトで出し入れする。そのフォークリフトの運転席は個室タイプになっていてドアを閉めて暖房を入れることができる。すると普段着でもマイナス28度の冷凍庫に入ることができる、というわけ。ニーズに応じたフォークリフトがあるのだ。

    この後、さらにイカの加工工場へ。魚醤の生産工場だ。イカの内臓やイワシを発酵させたもの。能登では伝統的に「いしる」と呼ばれる。ヤマサ商事の山崎晃一氏の案内で貯蔵庫を見学させてもらった。貯蔵庫入口のドアを開けたとたんに発酵のにおいに包まれた。発酵のにおいは不思議だ。「ヤバイ」と言いながら鼻をふさぐ者もいれば、「どこか懐かしいにおいですね」と平気で入る学生もいる。フランス人の女子留学生は逃げるようにして遠ざかった。発酵食の原点でもある魚醤のタンクがずらりと並ぶ。日本料理やイタリア料理の隠し味としてニーズがあるようだ。「イタリアから問い合わせもあります」と山崎氏。「能登のいしるがヨーロッパ進出」というニュースを期待したい。

    七尾市能登島の「のとじま水族館」を見学した。池口新一郎副館長の解説を聴く。近海の魚介類を中心に500種4万点を展示。水族館のスターは地元の定置網で捕獲されるジンベイザメだ。体の大きさの割には威圧感がない。ジンベエザメは和名だが、模様が着物の甚兵衛に似ているからとの説も。小魚やプランクトンがエサで動きがゆったりしているので、人気があるのだろう。体長が6㍍になると、GPS発信機をつけて、再び海に放される。ジンベイザメの回遊経路などがこれによって調査される。

    ツアーの最後は能登半島で一番高い山、宝達山(637㍍)に登った。「旅するチョウ」と言われるアサギマダラが宝達山の山頂をめざして飛来しているからだ。このチョウは春は日本列島の北の方へ、秋には南の方へ。その距離は2000㌔にも及ぶと言われる。宝達志水町職員でもある田上諭史氏たちはアサギマダラを捕獲、マーキングして放す。また、蜜がエサになるホッコクアザミを伐採しないなど保護運動につとめている。田上氏は白いタオルを回転させて、アサギマダラをおびき寄せようとしたが、風が吹いていたせいか、1匹しか捕獲できなかった。

それにしてもイカ、ジンベエザメ、そしてアサギマダラと、いろいろな人々が関わり合って、生業としたり、展示をしたり、保護活動をしたりと実に多彩だ。能登の生物多様性と人々の営みを理解する一助となった。宝達山頂から日本海の風景を堪能してツアーを締めくくった。

⇒16日(土)夜・金沢の天気   はれ


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