自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「賃貸アメーバー」の奇観

2005年05月23日 | ⇒トピック往来
  北陸3県の税務署は先日、2004年の所得税額が1千万円を超えた高額納税者を公示しました。公示対象者は前の年より42人少ない1030人で、バブル経済の余韻が残っていた1991年の3319人に比べ、実に3分の1に減ったことになります。県別では石川が384人、富山が344人、福井が302人で、いずれも過去最低の人数でした。今回のコラムは、ある意味で、新聞に名前が出ないように苦闘している人たちの話です。

   県庁周辺に「バブルの再燃」
  高額納税者の話題と関連し、知り合いの住宅メーカーの社員がこんな話をしてくれました。「(石川)県庁周辺でバブルが再燃している」というのです。その話を聞いて、実際に県庁12階から眺めた周辺地が上の写真です。確かに、大きなビルこそ立ってはいないものの、低層のマンションやアパートや住宅が立ち込んでいる様子がうかがえます。私にはアメーバーのごとく広がる灰色の物体のようにも見えます。

  以下は、知り合いの社員の話です。県庁が一昨年この地に移転し、もともと田んぼだったこの土地の区画事業も完成、広大な宅地が出現したのです。そこで、資産保有者は何を考えて住宅メーカーと相談するかというと、「資産の圧縮」をどう効率よく行うかという一点にたどり着くのだそうです。たとえばの話です。1000坪の宅地を保有したとします。これだけでは固定資産税と都市計画税がかかるだけの「マイナス資産」です。そこで、抵当権設定の限度いっぱいに銀行から借り入れを起こし、その金額に見合う低層マンションや2階建てアパートを建てます。そして、一括管理と家賃保証を住宅メーカーに任せるのです。だいたい20年が保証期間になるといいます。
   空室率が高まり逆ザヤも懸念
  県庁周辺ですと、いま「人・モノ・金」が集まってきているので入居率が高く、住宅メーカーのリスクも少ない。これでだいたい年利回り7%が確保できる、つまり1億円を借りた場合、ここから上がる家賃収入が700万円という計算です。相続が発生した場合でも負債も相続することになり、さらに相続する土地には貸家建付地の評価減(20%)があるなど節税効果は大きいというわけです。土地を売却してそのままキャッシュを持っていても相続が発生した場合に税の網がかかるので、それなら、アパートやマンションの建てよう、となるのです。逆に言えば、田んぼが区画整理によって評価資産へと価値を高めた瞬間から、その所有者は税制によって心理的にコスト的に追いつめられていくのです。しかも、アパートやマンションが立ち並ぶ地域に住む魅力を感じないのは自明の理。古い賃貸物件から順に空室率が高まると同時に家賃が下がり、収支が逆ザヤに転じてこのバブルは終焉します。ちょっと暗い話ですが…。

 需要と供給のバランスではなく、土地に重くのしかかる税制と「税務署が怖い」という所有者の心理が生む建設ラッシュ。これが県庁周辺で広がっているアメーバーのような奇観の正体ではないか、と思うのです。

⇒23日(月)午前・金沢の天気 晴れ 
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