IOCの委員がイギリスの「Evening Standard」紙(5月26日付)に語ったコメントが波紋を広げている。記事の見出しは「Barring Armageddon, the Tokyo Olympics will go ahead, says IOC committee member Dick Pound」=写真・上=、意訳すれば、「アルマゲドンにならない限り、東京オリンピックはやれるだろう、IOC委員のディック・ポウンド氏は語る」。例えとは言え、「Armageddon」という言葉を使った時点で世界に強烈な衝撃を与えたに違いない。「人類最終戦争」という意味だが、久しぶりに聴いた言葉だ。
自身がこの言葉を知ったのは、一連のオウム真理教事件の取材を通じてだった。オウム事件は、坂本堤弁護士一家殺害事件(1989年11月)、長野県松本市でのサリン事件(1994年6月)、東京の地下鉄サリン事件(1995年3月)など数々ある。一方で、犯行の首謀者で教祖の松本智津夫(麻原彰晃、2018年7月死刑執行)は「アルマゲドンが迫っている」と不安を煽ることで若者の心理につけ込み、信者を急速に増やしていた。あの電極が付いた「ヘッドギア」は「カルト教団」を強く印象づけた。
その麻原彰晃が1992年10月、石川県能美市(当時・寺井町)で記者会見した。自身は当時、テレビ朝日系ローカル局の報道デスクで現場にも立ち会ったので覚えている。寺井町の油圧シリンダーメーカーの社長に麻原が就いた。前社長は信者で資金繰りの悪化を機に社長を交代した、という内容だった。ほとんどの従業員は教団の経営に反発して退職し、代わりに信者が送り込まれていたので「教団に乗っ取られた」と周囲の評判は良くなかった。まもなくして会社は倒産。会社の金属加工機械などは山梨県の教団施設「サテイアン」に運ばれていた。その後の裁判で、金属加工機械でロシア製カラシニコフAK47自動小銃を模倣した銃を密造する計画だったことが明らかになった。
話が随分と横にそれた。「もう時機を逸した。やめることすらできない状況に追い込まれている」。先日届いた東京の知人(メディア専門誌編集長)からのメールマガジンにこのようなことが書かれてあった。東京オリンピック・パラリンピックの開催についてだ。メルマガでは、日本の戦史に残る大敗を喫した「インパール作戦」の事例が述べられていた。
大戦の末期、日本軍は1944年3月からイギリス軍の駐留拠点だったインドのインパールに侵攻する。当時、十分な武器や食糧もない中での作戦だった。その時の陸軍司令官はこう言ったとされる。「兵器や弾丸、食糧がないことは戦いを放棄する理由にはならない。弾丸がなかったら銃剣がある、銃剣がなくなれば、腕で行け、腕がなくなったら足で蹴れ、足をやられたら噛みつけ。日本男子には大和魂がある。日本は神州である。神々が守ってくれる」と。この事例は、精神論ではもう大会の開催は無理だと物語っている。
アルマゲドンにならなくても、すでにオリンピックへのモチベーションは下がっている。NHKニュースWeb版(5月17日付)によると、オリ・パラで予定されている海外選手の事前合宿や交流について、国内の感染拡大への懸念などから少なくとも全国の54の自治体で受け入れが中止された。相手国側から「日本で感染が収まらず移動にリスクがある」や「選手やスタッフの安全を確保できない」といった理由で中止が8割余りで、それ以外は、自治体側から申し出たり両者で協議したりしたケースだった。
IOCが粘って開催を唱えれば、それだけ人々の心はオリンピックから遠ざかっていく。アルマゲドンという言葉を出したこと、それ自体がオリンピックの終わりを暗示しているのではないだろうか。
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