自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆兼六園の楽しみ方②

2005年05月13日 | ⇒トレンド探査
 金沢市にある国の特別名勝・兼六園でもっとも古い建物が茶亭「夕顔亭(ゆうがおてい)」です。この茶室から滝を見ることができるので、別名「滝見の御亭(おちん)」とも呼ばれています。
「利家、居眠りの柱」 

 この夕顔亭の見本となったといわれるのが、京都の茶道・藪内家の「燕庵(えんなん)」という茶亭です。かつて藪内家の若宗匠、藪内紹由氏に取材したことがあり、そこで出た話です。藪内家には、「利家、居眠りの柱」とういエピソードがあるそうです。京の薮内家を訪れた加賀藩祖の前田利家が燕庵に通された時、疲れがたまっていたのか、豪快な気風がそうさせたのか、柱にもたれかかって眠リこけてしまったというのです。こうした逸話が残る燕庵を後に利家の子孫、11代の治脩(はるなが)が1774年に燕庵を模してつくった茶亭がこの夕顔亭です。おそらく、治脩も利家の居眠りの話を聞いたに違いありません。そして、「ご先祖さまはなんと…」と苦笑したことでしょう。

デザインの著作権にまつわる約束事

 この夕顔亭をつくる際、薮内家と加賀藩には一つの約束事がありました。茶器で有名な古田織部が指導してつくったこの由緒ある茶亭を簡単に模倣させる訳にはいかない。そこで、もし燕庵が不慮の事故で焼失した場合は「京に戻す」という条件で建築が許された、との言い伝えです。知的財産権の観点からいうと、広い意味での「使用権」だけを加賀藩に貸与したのです。もちろん、契約者の前田ファミリーは明治維新後この夕顔亭を手放し、今では石川県の所有になっていますので、その約束事は消滅したといえるでしょう。

 知的財産権という法律は当時なかったにせよ、「知財を守る」という精神は脈々と日本の歴史の中に生きていたということでしょう。この苔むした古い茶亭にはそんな現代に通じるエピソードがあったのです。 

⇒13日(金)午前・金沢の天気 
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