7月30日のNHK-BS1番組「国際報道2015」で、金沢大学が取り組んでいる、フィリピンのユネスコ世界文化遺産、FAO世界農業遺産の「イフガオの棚田」での人材養成プログラムが紹介された。午後10時40分からのワールド・ラウンジのコーナーで10分ほどの特集だった=写真=。タイトル「〝天国への階段〟を守るために」。7月25日には地上デジタルのNHK「おはよう日本」でも紹介されていて、知人からは「テレビ見たよ」とメールをいただいた。
このプログラムは、金沢大学がフィリピン・ルソン島イフガオで実施している国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」(通称:イフガオ里山マイスター養成プログラム)だ。2013年5月、能登で世界農業遺産国際フォーラムが開催され、そのときに能登コミュニケ(共同声明)が採択された。その内容は「先進国と開発途上国の間の認定地域の結びつきを促進する」などの勧告だった。このコミュニケを今後の能登にどう活かせばよいのか。金沢大学里山里海プロジェクトの代表、中村浩二教授と思案をめぐらし、フィリピンのイフガオ棚田との連携を思い立った。
イフガオの棚田は、ユネスコや国連食糧農業機関(FAO)により国際的に評価を受けているものの、若者の農業離れや都市部への流出により、耕作放棄地の増加が懸念されている。4分の1が耕作放棄地になりつつあるとの指摘もある。地域の生活・文化を守り、継承していく若者も減っている。さらに、絶景で「天国への階段」とも称される棚田が崩れることもままある。そのために、JICAや世界のNGOが懸命になって、地域を支援している。ただ、土地には土地の人の考えがあり、そう簡単ではない。
実は、同様の課題を有しているのが、能登半島だ。担い手が減り、田んぼを始め、山林や畑、地域の祭り文化も後継者がいないというところが目立っている。若者たちにもう一度地域の価値を理解してもらい、地域をどのように活用すればよいか、そのようなことを考え、実践する人材を育てている。金沢大学が地域の自治体とともに取り組んでいる、「能登里山里海マイスター」育成プログラムがそれだ。もう8年間続け、修了生(マイスター)は107人になった。各地で107人の活動は能登を明るくしていると自負している。
イフガオの話は金沢大学の中村教授が勝手に進めたのではなく、フィリピン大学の教授たちから、能登の人材養成を取り組みをぜひイフガオで活かしたいとのオファーが中村教授にあり、どうノウハウを移転すればよいか、JICA北陸や同じ世界農業遺産の佐渡の人たちと連携を進めた結果なのだ。
そのイフガオ里山マイスター養成プログラムが昨年4月に始まり、2年目にしてさまざまな成果が表れてきた。番組で紹介されたマイラ・ワチャイナさん(29)のライス・ワイン。当地では伝統的な酒づくり。大鍋を使って米を火で炒(い)る。こんがりきつね色になるまで炒って、水を入れて炊きく。そこに昔から伝わるイースト菌を入れてバナナの葉でくるみ、5日間発酵させれば出来上がり。イフガオ伝統のティブンと呼ばれるライスワイン。酸味が効いて、甘味があり、確かに日本酒よりもワインに似た味だ。これまでは各家の地酒だった。それを品質を統一して共同出荷することでイフガオブランドの酒として地元のホテルや海外に出荷できないか視野が広がってきた。昨年9月、能登研修で造り酒屋を見学したマイラさんは酒瓶のラベルに注目していた。自作のラベルを考案して、酒瓶に貼って、共同出荷する。もともと有機栽培のイフガオの米はもっと世界に売れてよい、さらにライスワインが売れれば、土地の誇りにもなり、棚田を耕そうとする若者も増える、そうマイラさんは考えているのだ。
また、有機の水田を活用したドジョウの養殖も番組では紹介された。ライスワインとドジョウ、地道なビジネスかもしれないが地に足をつけた、可能性のあるビジネスだ。
イフガオ里山マイスター養成プログラムはそういったアイデアを持った若者たちの夢や希望を育む場、なのである。同じく若者たちが都会に流失して田んぼが荒れていることを憂う能登里山里海マイスター育成プログラムの受講生たちとは相通じるマインドがそこにある。まさに棚田を救う天国への階段、NHKが2度も放送した価値はそこにあるのだろう。
⇒2日(日)午後・金沢の天気 はれ
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