「Share(シェア)金沢」という施設が金沢大学の近くにある。高齢者向けデイサービス、サービス付き高齢者住宅、児童福祉施設、学生向け住宅の複合施設だ=写真=。90人ほどが暮らす、ちょっとしたコミュニティでもある。施設には天然温泉やカフェバー、レストラン、アルパカの牧場、タイ式マッサージ店などがあり、近くの子供たちや住民も出入りする。運営している社会福祉法人「佛子園」の理事長、雄谷良成(おおや・りょうせい)氏と面談するチャンスがあった。
大学で作成する教材用の動画の出演依頼の面談だった。テーマは「ソーシャルイノベーション」。都会から地方に移住したいという人々を地域が受け入れ、一つのコミュニティー(共同体)をつくることで新たな考えや発想、ビジネスを起こすという社会実験の場をいかにして創るか。Share金沢はそのモデルの一つだ。CCRC(Continuing Care Retirement Community)は高齢者が健康なうちに地方に移住し、終身過ごすことが可能な生活共同体のような小さなタウンを指す。1970年代にアメリカで始まり、全米で2000ヵ所のCCRCがあるという。都会での孤独死を自らの最期にしたくないと意欲あるシニア世代が次なるステージを求めている。そうした人々を受け入れる仕組みを地方で創る、いわば日本版CCRCの社会実験の意義について講演をお願いした。
雄谷氏は「私が目指しているのは、“ごちゃまぜ”によるまちづくりです」 と口火を切った。続けて「障害のあるなしや高齢に関係なく、多様な人たちがごちゃまぜで交流する。誰もがコミュニティの中で役割を持ち、機能しすることで元気になり、コミュニティが活気づく。いわば人間の化学反応が起きるのです。いま日本の社会、とくに地域に求められているのはこうした共生型社会ではないでしょうか」と。
雄谷氏の祖父は寺の住職で、戦災孤児や知的障害児を引き取り育てていた。1961年生まれの雄谷氏も障害児たちと生活し、「ごちゃまぜ」の環境で育った。金沢大学で障害者の心理を学び、青年海外協力隊に入り、ドミニカで障害者教育に携わった。いろいろな人たちがごちゃまぜに共生し、人と人が関わり合うことによって化学反応が起きる。事例がある。通所している認知症の女性が、重度心身障害者の男性にゼリーを食べさせようと試みた。男性は車椅子で首はほとんど動かせない。3週間ほど繰り返すうちに男性にゼリーを食べさせられるようになった。首が少し回るようになったのだ。女性も深夜徘徊が減った。この様子を観察していた雄谷氏は「人と人が関わり合うことによって互いが役割を見つけ、生きる力を取り戻す。大きな気づきでした」と。
雄谷氏が提唱する、ごちゃまぜのコミュニティづくりの構想は、縦割りとなった社会制度を崩すものだ。政府が目指すべき将来像を示す「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」にこの構想が盛り込まれた。個人の人生設計と併せて地域で共生する社会のなかで誰もが活躍する。少子高齢化・人口減少の課題先進国、日本にとって示唆に富んだ提案ではないだろうか。今回の面談の時間は30分ほどだったが、講演の動画収録にOKが出たので、今度ゆっくり聞かせてもらうことになった。
⇒4日(水)朝・金沢の天気 あめ
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