自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★能登半島地震 危機に瀕する観光、一次産業、伝統工芸

2024年03月13日 | ⇒ドキュメント回廊

  元旦の地震が能登の経済に与える影響は計り知れない。その大きな一つは観光産業だろう。七尾市の和倉温泉は年間宿泊客数が90 万人とされるが、震災で22の旅館(収容人数6600人)すべてが休業に追い込まれている。元湯は復活したものの、断水が続いていて旅館営業の再開には困難な状況が続いている。

  和倉温泉観光協会の推計によると、1月と2月で7万7000人の予約が入っていたが、震災ですべてキャンセルとなり、これだけで20億円の売上損失となった。さらに、旅館や温泉施設などの建物・施設損害などで1000億円以上の被害が出ている。(※写真・上は、液状化現象で盛り上がった和倉温泉街の歩道)

  農林漁業などの第一次産業にも影響が大きい。農水省によると、石川県内の69漁港のうち60港が損壊や地盤隆起の被害を受けた。転覆や沈没、座礁などの被害を受けた漁船は230隻以上。荷さばきなどを行う水産業共同利用施設や漁業用施設は50カ所以上で損壊が確認された。ことしの冬はブリが豊漁で、地震後の1月10日に七尾市で、11日には能登町でブリの定置網漁が再開された。しかし、地震で製氷機が破損し、競り場も壊れ、水道などのインフラ整備が追い付かず、流通が一部滞った。

  200隻の漁船が湾内の海底の隆起で船が出せない状態だった輪島漁港では湾内の底ざらえをする浚渫(しゅんせつ)作業が行われているが、まだ漁の再開のめどはたっていない。本来なら、ノドグロやアマダイ、メバルのシーズンだ。同じ輪島市門前町の鹿磯漁港では海底が最大4㍍隆起して港そのものが使えなくなっている=写真・中=。このほか隆起があった3市町(輪島市、珠洲市、志賀町)の22漁港の漁協組合員は2640人、年間漁獲高は69億円(2022年実績)になる。そして、農業も水田の耕作時期を迎えるが、ひび割れが入った田んぼが目に付く。

  伝統産業の輪島塗も苦境に陥っている。輪島市は大規模な火災に見舞われ、国土交通省の発表(1月15日付)によると、焼失面積約5万800平方㍍、焼失家屋約300棟におよぶ。輪島塗は漆器の代名詞にもなっている。職人技によってその作業工程が積み上げられていく。木地、下地、研ぎ、上塗り、蒔絵といった分業体制で一つの漆器がつくられる。ただ、同じテーブルで作業をするわけではなく、それそれが工房を持っている場合が多い。火災と震災でそのかなりの工房が被災した。さらに、1000人ともいわれる職人の多くが避難所などに身を寄せている。(※写真・下は、輪島朝市通りに軒を並べていた漆器販売店など商店が火災で焼失した)

  輪島塗の作製は再開できるのだろうか。作業をする場と職人技に欠かせない道具(蒔絵の筆など)の確保が難しい。バルブ経済絶頂のころは年間生産額180億円(1991年)もあったが、このところ28億円に落ち込んでいる(令和3年版輪島市統計書)。かつて、「ジャパン(japan)は漆器、チャイナ(china)は陶磁器」と習った。日本を代表する伝統工芸、その輪島塗がいま危機に瀕している。

⇒13日(水)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

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