自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「廃校」で学ぶ未来可能性

2019年06月06日 | ⇒キャンパス見聞

  「平成」は人口減少が進んだ時代でもあった。その時代の雰囲気は「少子化」と表現されている。ではどれだけ少子化が進んだかというと、平成元年(1989)の小学生は960万人だったが、29年(2017)には644万人、3分の2に減っている(文科省「平成30年版文部科学統計要覧」)。この少子化で公立の小中学校を抱える自治体は統廃合を進め、学校の廃校が急増した。平成14年(2002)度から29年(2017)度の16年間で小中高の廃校数は7583校に上る(文科省「平成30年度廃校施設等活用状況実態調査」)。年平均で474校だ。

   少子化、学校の廃校化は地方の過疎地にとどまらず、大都市でもいわゆる「ドーナツ化現象」や高齢化したベッドタウンでも進む。先の文科省調査によると、廃校の数が多い都道府県の第1位は北海道(760校)で、第2位は東京都(303)、第3位は熊本県(284)と続く。学校は地域のシンボルであり、それが廃校になると心の灯が消えたように寂しく感じる人も多いだろう。という暗い話をするために今回ブログを書いているのではない。増えた廃校をどう活用するかという前向きな話に切り替える。

   廃校7583校のうち施設が現存するのは6580校で、「活用されているもの」が4905校と74.5%だ。「活用予定が決まっている」204校を入れると77.6%、ほぼ8割が再利用されている(文科省「平成30年度廃校施設等活用状況実態調査」)。多くのケースは地域の体育施設や文化教室など学びの場としての活用だが、研究拠点やビジネスに活かす動きがトレンドにもなっている。国立研究開発法人「科学技術新興機構(JST)」が発行している『産学官連携ジャーナル』(2019年5月号)が「地方の強みで廃校舎再生」をタイトルに特集記事を組んで紹介している。

   宮城県石巻市では大学発のベンチャー企業が廃校となった小学校校舎を改修して、東北大学が開発したマンガン系リチウムイオン電池の製品化に取り組んでいる。この小学校を卒業した社長が学校の表札や職員室の看板など学校の雰囲気を残しながら改修したという。廃校となった海辺の小学校施設や旧役場などを活用して水産研究センターにしているのが愛媛大学だ。マスなどの養殖のほか、ICTやIoT技術を活用した赤潮・魚病対策の研究、水産物の流通に関する研究など多様だ。

   『産学官連携ジャーナル』の特集記事では、金沢大学が能登半島の先端で実施している「能登里山里海マイスター育成プログラム」も紹介された。2004年廃校となった珠洲市の小学校施設で、2007年10月から里山里海にある自然資源、文化資源を活用する人材養成プロジェクトをスタートさせた。半島の先端にこれまで282人が学びにやってきて、これまで183人の修了生を輩出している。東京など関東や関西から学びにきた医者や弁護士もいる。半島での学びを通して自己課題の解決の糸口を見つけ、自らのビジネスに生かす人もいれば、起業する人、さらに自己研さんを深める人とさまざまだ。「イノベーションネットアワード2018(地域産業支援プオログラム表彰)」で文部科学大臣賞という評価も受けた。

   その廃校での人材育成プログラムがさらに学びのすそ野を広げ、今月から第4フェーズに入る。プロジェクト名を「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」と改称し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の考え方をベースに里山里海の持続可能性を学ぶカリキュラムを提供していく。この大学の取り組みそのものがSDGsではないかと察している。廃校舎をリサイクルして学びの場として活用しているが、その学びの内容に関しては当初の第1フェーズが里山里海の生物多様性、次が里山里海と世界農業遺産、さらに里山里海と持続可能社会、そして第4フェーズが里山里海とSDGsと、たゆまなくアップサイクルなのである。

    SDGsは2030年までに、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発のための目標を達成する。廃校となった校舎を活用してこの未来可能性を学ぶ。校舎は地域のシンボルだけに立地条件がよい。金沢大学が利用させてもらっている学舎は海岸から小高い丘にあり、窓から里山や里海が望むことができる。(写真・上は2004年に廃校となった珠洲市小泊小学校の校舎、写真・下は能登里山里海マイスター育成プログラム講義の様子)

⇒6日(木)午後・金沢の天気     はれ

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