自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「脱亜」の時代状況

2019年01月22日 | ⇒メディア時評

   日経新聞社が郵送による世論調査の特集を組んでいた(21日付)。同社は毎月電話を調査を実施しているが、書面の方が「じっくりと回答できる」という特性を生かしたという。調査は2018年10月-11日で回答は1673件、回収率は55.8%。その結果を自分なりに考察してみたい。

   意外な結果だと思ったのは、日本の8つの機関や団体、公職の信頼度を尋ねた結果だった。信頼度1位は60%で自衛隊だった。次は裁判所で47%、警察43%と続く。ある意味でまともな結果かもしれない。昨年は地震や洪水など自然災害が相次ぎ、まさに災害列島と化した。その災害現場で被災者の救出や復旧にあたっていた自衛隊員の姿が評価されたのだろう。

   逆に、「信頼できない」トップが国会議員56%、次がマスコミ42%だ。ひとくくりにマスコミと言っても範囲は広いが、その一員でもある日経新聞社もショックな数字だったろう。私自身この数字には正直「困った」との印象だ。ネット上ではフェイクニュースが氾濫している。確かな取材手法で情報を世に投げるのがマスコミの使命だと解釈している。そのマスコミが「信頼できない」となるとファクトチェック(信憑性の検証)は誰が担うのか。

   もう一つ困った結果を。好感度が低い国、「嫌い」「どちらかといえば嫌い」は北朝鮮82%、中国76%、ロシア、韓国と続く。「近隣外交」という言葉ほど面倒なものはないと、日本人の多くは思っているのではないだろうか。尖閣諸島をめぐる中国側の執拗な動きは連日のように、そして韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題ではへきえきとしている。

   134年も前、隣国に対する憤りの念を持った人物がいた。福沢諭吉だ。主宰する日刊紙「時事新報」の1面社説にこう書いた。「・・独リ日本の旧套を脱したるのみならず、亜細亜全洲の中に在て新に一機軸を出し・・」(1885年3月16日付、本文はカタカナ漢字表記)。全文2400字に及ぶ記事の中で近隣諸国についてこう述べている。「日本を含めた3国は地理的にも近く”輔車唇歯(ほしゃしんし)”(お互いに助け合う不可分の関係)の関係だが、今のままでは両国は日本の助けにはならない。西欧諸国から日本が中国、朝鮮と同一視され、日本は無法の国とか陰陽五行の国かと疑われてしまう。これは日本国の一大不幸である」(鈴木隆敏編著『新聞人福澤諭吉に学ぶ~現代に生きる時事新報~』より引用)。 

  近隣諸国と真逆に、好感度が高いのはイギリスとオーストラリアがそれぞれ72%でアメリカ67%と続く。近隣諸国との関係性は福沢が論じた当時の状況とダブる。「脱亜」は福沢の言葉だが、その後「脱亜入欧」が広がった。福沢がこの日経の調査を見たらどうコメントするだろうか。(※写真は福沢諭吉像=慶応義塾大学三田キャンパス)

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