自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★嵐の前の静けさ

2017年06月04日 | ⇒メディア時評
北朝鮮はミサイル発射を繰り返している。さらに、アメリカや中国の出方にはかたくななまでに態度を硬化させている。そのような中で、国連安全保障理事会は昨日(日本時間で3日)、北朝鮮に対する経済制裁を拡大する決議を全会一致で採択した。これまで制裁に慎重だった中国とロシアがそろって採択に回った。報道によると、制裁ではあらたに北朝鮮の情報機関の局長や団体の資産凍結や渡航禁止とした。

  日本海側に住む身として気になったニュースは、今月1日、海上自衛隊の護衛艦2隻と航空自衛隊のF15戦闘機部隊が、アメリカ海軍の「カールビンソン」と「ロナルド・レーガン」の2隻の空母艦隊と日本海で共同訓練を実施したことだ(防衛省発表)。航空自衛隊小松基地からはF15戦闘機6機が参加し、アメリカの空母艦載機FA18戦闘攻撃機と模擬の空中戦を展開した。海上自衛隊の護衛艦「ひゅうが」と「あしがら」はアメリカ側の艦艇と通信訓練を実施した。護衛艦は3日まで、小松基地の戦闘機部隊は2日まで共同訓練を実施した。

  防衛省ホームページには、今月2日行われたの防衛大臣の記者会見の概要が掲載されている。記者との質疑でこのような下りがある。「Q:空母と自衛隊の共同訓練について、北朝鮮に対する圧力につながるとお考えでしょうか。」と記者が問いかけた。これに対し防衛大臣は次のように返答している。「A:今回の訓練の目的自体は自衛隊の戦術技量の向上と米軍との連携強化を図ることが目的であります。そして、今回こうした形で共同訓練を行うことは、わが国の安全保障環境が厳しさを増している中で、効果として日米同盟全体の抑止力・対処力を強化して、地域の安定化に向けたわが国の意思と高い能力を示すものであるというふうに考えているところでございます」と。

  つまり、北朝鮮への圧力ではない。あくまでも自衛隊の戦術技量の向上とアメリカ軍との連携強化である、と。なんとも煮え切らない防衛大臣の答えではないだろうか。誰が考えても、朝鮮半島の東側の日本海で海と空の共同訓練を実施すれば、それは「北に対する圧力」以外の何ものでもない。

  現に、アメリカのマティス国防長官は3日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)でリアリティのある演説をしている。以下、朝日新聞の記事引用。マティス氏は、北朝鮮が核・ミサイル開発を急ピッチで進めていることについて「最も危険で差し迫った脅威」と危機感を示し、日本や韓国などの同盟国に加え、中国とも協力し、「北朝鮮が核・ミサイル計画を放棄するまで、外交的、経済的な圧力を高めていく」と述べた。その上で、アメリカは北朝鮮問題や台頭する中国の脅威に対応するため、アメリカ海軍の艦艇の60%、陸軍の55%、艦隊海兵部隊の3分の2をアジア・太平洋地域に重点的に配備していることも明らかにした。

  マティス国防長官の上記の発言を読んだだけでも、今回の日本海での共同訓練は実践的な軍事訓練、つまり「圧力」である。さらに、兵力の注ぎ方にも驚く。アメリカ・ワシントン州の海軍基地を今月1日に出港した原子力空母「ニミッツ」が日本海で合流することになれば空母3隻目となる。「アメリカ海軍の艦艇の60%」をアジア・太平洋地域に重点的に注ぐとはこのことかと実感として伝わってくる。先月30日、アメリカ国防総省は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の迎撃実験を初めて実施し、成功したと発表した。北のミサイル攻撃への対応を整えたということだろう。日々拡大する日本周辺での「軍事拠点化」である。とくに日本海側に住む我々にとって、ただごとではない。いま状況は「嵐の前の静けさ」か。

⇒4日(日)午後・金沢の天気    はれ
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