自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★能登ワインの輝き

2013年10月11日 | ⇒トピック往来

 過日金沢のワインソムリエから誘いを受け、知人を誘ってワインツアーに能登半島に出かけた。「Japan Wine Competition 2013(国産ワインコンクール)」で金賞を受賞したワインが飲めるというので心が動いた。このコンクールは、国産のブドウを100%使用して造られたワインを対象とした日本で唯一のコンクールで11回目の開催。700点近くのワインが出品され、国産ワインの品質は年々向上していると、ソムリエ氏。ツアーは自らが企画主催した。

 訪問先のワイナリーは能登ワイン株式会社(石川県穴水町)。今回の国産ワインコンクール2013では、赤ワイン「2011 クオネスヤマソーヴィニヨン」が金賞を、ロゼワイン「2012 マスカットベリーAロゼ」が銀賞を、赤ワイン「2012 心の雫」が銅賞を受賞した。同ワイナリーが金賞を受賞したのは初めてで、「能登で栽培されるブドウと醸造技術が全国でもトップレベルの高い評価をいただきました」とブドウ畑を案内してくれた社長は終始にこやかだった。

 ブドウ畑ではすでに収穫は終わっていたが、写真で見るヨーロッパのブドウ畑の景観だ。ヨーロッパスタイルの垣根式で約20品種を栽培し、剪(せん)定や収穫は手作業だ。能登は年間2000㍉も雨が降る降雨地でブドウ栽培は適さないと言われているが、適する品種もある。それがヤマソーヴィニヨン。日本に自生する山ブドウと、赤ワイン主要品種カベルネ・ソーヴィニヨンの交配種で、日本の気候に合うブドウ品種として、山梨大学の研究者が開発した。それだけに、ヤマソーヴィニヨンは成長がよく、1本の木で15㌔から20㌔のブドウの実が収穫される。ワイン1本(720ml)つくるには1㌔の実が必要とされるので、実に15本から20本分になる。

 「よき畑によきブドウが実る」と社長が説明した。能登ワイン独特の畑づくりがある。穴水湾で取れたカキの殻を1年間天日干しにしたものを砕いて畑にまく。もともとの能登の地は赤土の酸性土壌なので、カキ殻のアルカリ分が中和し、ミネラルを土壌に補強する。1年間雨ざらしなのでもちろん塩分はほとんど抜けている。参加者が感動するはこうした循環型、あるいは里山と里海の連環型の栽培方法なのだ。ブドウ畑は自社農園をはじめ一帯の契約農家で進められ、栽培面積も年々増え、現在26㌶に及ぶ。

 醸造所を見学した。ここのワインの特徴は、能登に実ったブドウだけを使って、単一品種のワインを造る。簡単に言えば、ブレンドはしない。もう一つ。熱処理をしない「生ワイン」だ。さらに詳しく尋ねると、赤ワインならタンクでの発酵後、目の粗い布で濾過し、樽で熟成する。さらに、瓶詰め前に今度は微細フィルターを通して残った澱(おり)を除く。熱処理するとワインは劣化しないが熟成もしない。熱処理をしない分、まろやかに、あるいは複雑な味わいへと育っていく。もう一つ。能登の土壌で育つブドウはタンニン分が少ない。それをフレンチ・オークやアメリカン・オークの樽で熟成させることでタンニンで補う。するとワインの味わいの一つである渋みが加わる。そのような話を聞くだけでも、「風味」が伝わってくる。

 ツアーのクライマックは能登牛のバーベキューだ。ロース肉と、金賞を受賞した赤ワイン「2011 クオネスヤマソーヴィニヨン」のマリアージュ(ワインと料理の相性)がなんとも言えない至福感だ。雨が多く栽培に不適とされた能登の地で、カキ殻を畑に入れることで土壌の質を高め、国産品種のヤマソーヴィニヨンと出会い、見事に実らせた。栽培を始めて10年の曲折とたゆまぬ努力、この物語こそが感激のテイストなのだ。

⇒11日(金)朝・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする