自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★台湾旅記~4~

2011年11月13日 | ⇒ドキュメント回廊

 5日午後、今回の台湾訪問の主な目的である国立台北護理健康大学=写真=旅遊健康研究所(大学院ヘルスツーリズム研究科)での講義。講義内容を簡単に説明すると、日本の温泉ツーリズムは「温浴効果」と「もてなし」による「癒し」である。海外でも温浴効果の高い温泉はあちこちにある。これに「もてなし」というメニューを加わえたのが日本流である。その「もてなし」の独自の進化が能登にある。以下、講義の概略を。

            「もてなしのDNA」あえのこと

 毎年12月5日、もてなしの原点といわれる農耕儀礼「あえのこと」が行われる=写真・下=。「あえ」は晩餐会の餐、「こと」は祭りで、食してもてなす、ご馳走でもてなすという意味。あえのことは、田に恵みをもたらす「田の神様」の労苦をねぎらって、その家に迎え、ご馳走でもてなす儀礼である。家の主は、田に神様を出迎えに行き、家の中に招き入れて、足を洗ってさしあげ、お風呂に入れて、ご馳走でもてなす。甘酒やタイの尾頭を並べて、「神様、どうぞお召し上がりください」ともてなす。しかも、その家々でもてなし方が異なる。なぜか。

 この田の神様には特徴がある。田の神様は稲穂で目を突いて、目が不自由であるという設定になっている。どちらか片方が不自由であったり、両目という場合、夫婦そろって不自由という、家々によってその設定が異なっている。目が不自由な神様をおもてなしするためにどうすればよいのか、それぞれ家々で考える。神様が転ばないように「神様、敷居が高いのでまたいでください」と本当に手を引くようにして座敷まで迎えたり、「どうぞ、お風呂でございます。熱いです」といって目の不自由さを家の主がカバーしいる。「もてなし」をホスピタリティ(hospitality)と訳する。あえのことは病院での介護や介助に近い意味合いのもてなし方になる。しかも、自分の家の構造によって、それぞれもてなし方が違う。自らイマジネーションを膨らませ、自身が不自由であったと仮定すれば、どのように介助してほしいかとあれこれ自ら考えることになる。全知全能の神様であったり、不自由さがない神様だったら一律でパターン化された儀礼になっていたかもしれない。

 健常者と障がい者の分け隔てのない便宜の提供をユニバーサル・サービスと称するが、あえのことはその原点とも言えなくもない。衣料品販売のユニクロは1店舗に1人の障がい者を従業員として雇い、日ごろから職場全体でその従業員がスムーズに働けるよう周囲が気配りや目配りをする。このトレーニングがあってこそ、障がいを持ったお客が訪れても普通に接することでできるようになる。 

 能登の各地では五穀豊穣を願う、感謝する祭りが盛んで、ヨバレという風習がある。地域外の親戚や友人、会社の同僚を家に招き、ゴッツオ(ご馳走)でもてなす。このもてなしの風土が能登で熟成された。この能登半島のもてなし、お祭り文化をサービス産業としてプロ化したのが和倉温泉と言える。和倉温泉の加賀屋は、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で31年連続1位に選ばれている。加賀屋の小田禎彦会長に講義をいただいた(2008年7月)。「サービスの本質は正確性とホスピタリティ」、「三河人の生真面目さがトヨタを世界一の自動車メーカーに押し上げた。能登人のもてなしの心、祭りの風土が加賀屋を日本一に押し上げてくれたと思っている」との言葉が印象的だった。

 旅館やホテルは、設備や施設も必要条件だが、もてなしの心を持った人々がその旅館にどれだけいるかという、その数、質の高さで決まる。加賀屋をはじめ和倉温泉には、能登人という「もてなし」の精神にあふれた人の集積があり、その風土(バックボーン)がある。いまでも能登の子供たちは、幼いころからお客さまへの扱いをトレーニングされ、また祭りに招かれたときの作法を心得える。つまり、ホスト、ゲストを繰りかえしながら人間として成長する。都会の家庭では得難いトレーニング(もてなしの作法)を受けて育っている。

 この「あえのこと」はユネスコの無形文化遺産登録に登録された(2009年9月)。そしてことし2011年6月に国連食糧農業機関の世界農業遺産(GIAHS=Globally Important Agricultural Heritage Systems)に認定された。あえのことがGIAHS認定の文化的なファクターとして寄与した。能登のもてなしの風土は、「能登はやさしや土までも」と表現される。台湾の北投温泉に加賀屋のフランチャイズ店ができて、接待係の従業員の立居、振る舞いを昨日、垣間見ることができた。見ていると実に心地いい。「もてなしのDNA」がこの地にしっかり根付くことを願っている。

⇒13日(日)朝・金沢の天気   あめ

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