先日(10月29日)、NHKの夜7時のニュースを見終えると、次に懐かしいメロディーが流れてきた。「NHKのど自慢」のそれ。「おやっ、なぜこの時間に」と思い見ていると、「NHKのど自慢 イン 台湾」とタイトルが出ている。スペシャル番組のようだ。しばらく視聴していると、自慢の歌声やパフォーマンスを繰り広げる日本と同じシーンだ。しかも、演歌からポップスまで幅広いジャンルの歌が披露される。日本語で歌われるのだが、予選を勝ち抜いた25組とあって、歌もさることながら日本語がうまい。演歌の節回しなども堂に入っている。相当歌い込んだのだろう。会場の国父紀念館(台北市)が2000人の観客で埋め尽くされ、テレビ画面からも熱気が伝わってきた。「台湾は近い」。そのとき感じた。それから1週間。きょう4日、台湾・台北市に来ている。その理由は後に述べるとして、初めて訪れたこの地の印象などを「台湾旅記」としてつづってみる。
北投温泉・加賀屋から見える「観音様の横顔」
台湾を訪れた目的は、授業だ。台北の大学と交流がある金沢大学のS教授から9月下旬、「能登の里山里海の取り組みやツーリズムについて講義をしてくれる人を探している」と問い合わせがあり、講義のコンセプトなどにやり取りをしていると「それでは能登の里山里海が世界農業遺産(GIAHS)に認定されたこととツーリズムについて、宇野さん、話して」と指名を受けてしまった。講義をする大学は、国立台北護理健康大学の旅遊健康研究所(大学院ヘルスツーリズム研究科)。日程は11月5日、テーマは「世界農業遺産(GIAHS)に登録された能登半島のツーリムズ」と決まった。
羽田から3時間40分、現地時間4時10分ごろに台北の松山空港に着いた。大学の教員スタッフの出迎えを受け、最初に向かった先は、台北市内の中心分から車で30分ほどの山麓にある北投温泉。ここの「日勝生 加賀屋」=写真・上=を取材に訪れた。日本でも有名な和倉温泉「加賀屋」の台湾の出店である。実は、講義では日本の温泉ツーリズムについても触れてほしいと先方から依頼されている。温泉ツーリズムといえば能登半島の和倉温泉、そして「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(主催:旅行新聞社)で31年連続日本一の加賀屋を引き合いに出さないわけにはいかない。北投の加賀屋の取材予約はあす5日の夕方だった。まずは挨拶に思い向かったのだが、現地のマネージャーから丁寧に館内を案内され、取材が事実上早まったかたちになった。
15階の部屋など見せてもらった。通訳の女性が「あれが観音様の横顔ですよ」と指差した方を眺めると、尾根の連なりが確かに観音像が仰向けに横たわった姿に見える。夕焼けに映えて、神々しさが引き立っていた=写真・下=。その後、部屋を出るとき同行した台湾の男性教員がアッと声を出した。部屋の入り口で無造作に脱がれてあった6人の靴がきちんと並べられていたのだ。「これが日本の流儀なのですね」と。
部屋から廊下に出ると、接待係の和服の女性が笑顔で控えていた。宿泊者でもない、ただの見学者にさえも気遣いをしてくれたのだ。これが加賀屋流の「もてなし」かと、見学を申し込んだ自分自身も恐縮したのだった。
⇒4日(金)夜・台北の天気 はれ