自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆文明論としての里山15

2010年02月21日 | ⇒トレンド探査

 「日本の農業を変えていこう」と壇上で声高に叫んだのは、石川県羽咋(はくい)市の農協の組合長だった。この言葉を耳にして、「本気か」といぶかった人もいれば、「いよいよ変わる」と期待した人もいるだろう。時代の臨場感を感じさせるステージだった。確かに、農業が変われば、自民と民主の政権交代の比ではない、文明が変わる、ひょっとして社会の構造が徐々に変わるかもしれないと予感がした。講演のステージに立ったのは、「奇跡のリンゴ」でNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でも取り上げられ、一躍「農業カリスマ」になった木村秋則氏である。9年間も低収入に苦しみながら、「無農薬・無肥料でリンゴは栽培できない」との常識を覆し、自然の力を引き出す自然栽培を実践している農家の物語を津軽弁をにじませながら淡々と語る。前売1500円、主催者発表で900人のホールは満杯となった。

            いま世界でうねっている動き

  農薬や除草剤、化学肥料を使わなくても農業はできると説くのだから、これまでそれらを一手に販売してきた農協の立場は180度ひっくり返る。しかも、この講演会を実施したのは、冒頭で紹介した農協や市役所の職員たちである。トップダウンではない。職員たちの発案によるボトムアップの企画だ。税金は一切使わない。1500円の前売券にはそのような意味がある。それより、農協の組合長が実行委員長となり、「日本の農業を変えよう」と自然栽培の木村氏を講師に招いたところがポイントであり、メッセージ性がある。これは、単に石川県能登半島での一つのシーンではない。

  神戸市。きのう(20日)ときょう、「食がささえる食と農~神戸大会~」。有機農業の国際会議でもある。私も参加している「新たな公共を考える市民キャビネット」のメンバーが大会に出席していて、けさ、その模様をメールで配信してくれた。以下は、そのリポート。行き詰まった資本主義の次の社会経済モデルを模索する動きが農業を中心に世界各地で起きている。有機農業の関係者を中心に国内外から500人が集まった。日本で始まった都市と農村の「提携」はアメリカやフランスではCSA(Community Supported Agriculture)と呼ばれて広がり、都市生活者と近郊の有機農家を直接つないでいる。リーマンショック以降のアメリカでは急増しているとの報告が大会であった。CSAはアメリカやカナダでは、都会から離れた新規就農者たちが始めるケースが多い。私が能登半島で見る移住組、つまりニューカマーたちと同じである。日本における有機農業の流通販売は、1970年代に反公害、反市場主義、新協同組合主義などさまざまなファクタから始まった。反市場主義は食べ物を商品にしないことや、消費者の選択の対象にしないことが目的である。新協同組合主義は、消費者と生産者が支え合う関係を作ろうというもの。日本でも早くからこの方式を取り入れてる生協がある。

  この大会では、行政の動きが顕著になった。たとえば地元・兵庫県では、8年後の平成30年までに「環境共生型農業」(農薬や合成肥料は慣行の3割減)を全農地の75%に広げようという目標を掲げている。さらに、「ひょうご安心ブランド」(同半減)を20%に、有機農業を2%にするという。同県では豊岡市で「コウノトリ育む農法」(環境共生型農業)が奏功して、勢いがついている。

  能登半島と神戸の事例はきのうときょうの動きのほんの一部にすぎない。農協あるいは地域での取り組みがうねり始めている。そして若者が動き始めている。

 ⇒21日(日)夜・金沢の天気 はれ

コメント (4)
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