自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★IPマルチキャスト放送の凄み

2006年02月06日 | ⇒メディア時評

  政府の知的財産戦略本部が、光回線やADSLのブロードバンドを使ってインターネットで地上デジタル放送のテレビ番組を提供する、いわゆるIPマルチキャスト放送について、著作権法上の「有線放送」と位置付けるとの方向性を打ち出した(2月3日付の新聞各紙)。

  このニュースの理解のポイントはマルチキャストの言葉の意味だ。ブロードキャストだと受信が誰でも可能となる。ユニキャストだと特定個人が対象だ。マルチキャストはその中間、つまり契約した多数に同時に送信するものだ。

   いまなぜこのIPマルチキャスト放送の著作権問題が出ているのかというと、地上デジタル放送はことし中に各ローカル局が対応するので全国でデジタル放送網が出来上がる。しかし、電波の届きにくい山間地などへはブロードバンドのインターネットを使って放送を流す計画(総務省案)だ。この際にネックとなるのが、インターネットを使った放送の著作権上での扱い。従来、文化庁はこのネット経由の放送を「自動公衆送信」と呼んで現在の有線放送(CATV)と区別してきた。

   今回の改正の方向性は、この自動公衆送信を有線放送と同じ位置付けとするもの。これによって、IPマルチキャスト放送の業者は、番組で使う音楽のレコード製作者ら著作権者に対し事後報告で済み手続きが簡素化される。現在は事前の許諾が必要で、これが手続きの煩雑さを生み番組のネット配信を阻む大きな原因とされる。改正法案は来年07年の通常国会で提出となる見通しだが、なにしろ、5.1サラウンドの臨場感ある音の演出が可能なデジタル放送であり、簡単に著作権団体がOKというか余談は許さない。

   今後この改正法案の成立を見込んで、IPマルチキャスト放送の事業者が続々と名乗りを上げるはずだ。なにしろ従来の放送の県域がインターネットによって外れる。県域内の難視聴世帯に対するマルチキャストは無料とするが、県域外への放送を有線放送並みに有料にすれば、これは大いなるビジネスチャンスにもなる。契約さえすれば、沖縄や海外にいても北海道の民放をリアルタイムで視聴できるようになるからだ。この意味では既存のCATV業者との確執も生まれよう。すでにKDDIなど4社が総務省にIPマルチキャスト放送の事業登録を済ませている。

   ともあれ、07年の参院選ではインターネットの選挙利用も解禁となる予定だ。続いて、IPマルチキャスト放送の利用も広がる。ネットが選挙と放送に本格的に組み込まれる時代。ネットの凄みである。

 ⇒7日(火)朝・金沢の天気  くもり  

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☆ちょっと気になった言葉3題

2006年02月06日 | ⇒トピック往来

  言葉にその時代の感性が含まれていると、なぜかしらその言葉が記憶に残るものである。最近、耳にしたり読んだ人々の言葉で脳裏に残っているものをいくつか。

   「金沢の街並みの景観をぶち壊しているのは屋根の上のあの無粋なアンテナなんです。あれを変えようと思ってここ10年努力してきました」。地上波デジタル放送用の平面小型アンテア=写真=を次々と開発している創大アンテナ(金沢市)の高島宏社長がある研究発表会(2月3日・加賀市)の冒頭に語った言葉だ。美術学校を出た高島氏にとって屋根の上のまるでイバラのようなテレビアンテナが気に障っていた。そこで一念発起して平面アンテナの開発に取り組み、アンテナをいまでは切手サイズほどにした。

  「日本の外交で先端を走って一生懸命になっているのは、外務省というより経済産業省だと思う。各国とのWTO(国際貿易機関)協定では本当に汗を流していると思うね」。馳浩代議士(文部科学副大臣)が金沢大学の林勇二郎学長との対談(2月4日・金沢市)で語った言葉。大学のあり方をめぐる話がいつの間にか政治、外交にまで広がって「時事放談」に。詳しい対談の内容は3月下旬に発行される金沢大学社会貢献情報誌「地域とともに」で。

  「私は今、ベートーベンの交響曲全曲演奏会に取り組んでいます。ベートーベンの前衛精神に挑戦する気持ちで、死ぬまで続けるつもりです」。朝日賞を受賞した指揮者の岩城宏之さんのスピーチから(1月28日付・朝日新聞)。昨年の大晦日、東京芸術劇場でのベートーベン演奏を9時間半に渡ってインターネットで配信する事業に私も携わり、演奏終了後に岩城さんとひと言ふた言。その際も上記の言葉の趣旨をはっきりと語っておられた。「死ぬまで…」との言葉は受け止め方によっては悲壮感が漂うが、5番「運命」にひっかけた岩城さん流の「しゃれ」だと私は解釈している。

⇒6日(月)朝・金沢の天気  ゆき 

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