自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「理は利に勝る」

2005年11月19日 | ⇒ドキュメント回廊

   「山眠る」という言葉がある。季節が冬に移ろい、枯れ枯れとして精彩を失った山の様はまるで眠りこけたような静寂、との意味だろう。人の眠りは「死」と同意語だ。先日、人生の大先輩、Y・Sさんの訃報を受けた。

   前職のテレビ局時代、2年間にわたりY・Sさんから薫陶を受けた。酒は嗜まなかったが、部下の宴席によく顔を出し面倒見のよい人だった。ゴルフの腕前は全盛期のころはシングルの実力と他の人から聞いた。クラシックに造詣が深く、骨董もかなりの目利きと推察した。若いころ在阪のテレビ局の営業マンとして鳴らし、日清食品のカップヌードルをテレビCMという側面からメジャーに押し上げたアイデアマンだった。もはや「世界の日清」なので本来なら営業マン冥利に尽きる話である。その自慢話の一つもしたくなるだろうが、それを語ることはなく、ゴルフの腕前と同様に他の人から伝説の数々を聞いた。

   Y・Sさんから私が直接教えられた言葉が今でも忘れられない。「理は利に勝る」だ。山一証券や日本長期銀行の破綻が表面化した1990年代後半、テレビCMの売上は伸びず、ローカル局の営業マンは悪戦苦闘していた。薬事法などの法律に抵触しそうなものは論外として、公序良俗の面ではどうかと思われる物件がスポンサーから持ち込まれることもあった。その度にY・Sさんは「理に合わん」とそれらのCMの放送を却下した。テレビ局の収入部門を統括する立場にあったので、売上数字は喉から手が出るくらい欲しかったはずだ。しかし、「利を優先させたら、理が立たない。理が立たなければ会社も人も立たない」と譲らなかった。

   その後、他のテレビ局ではCMの間引きなどCMにまつわる事件が相次ぎ発覚する。コンプライアンス(法令遵守)という概念を今では各テレビ局が競うように取り入れるようになった。一般常識で考えておかしいと思うことを企業はしてはならないというは当たり前のことなのだが、利益を追求する企業の中でその当たり前が時として通用しにくい場合もある。それを全部飲み込んでY・Sさんは一途を通した。

   役員定年後に関西に戻り、ゴルフを存分に楽しんだようだ。ヤフーでそのお名前を検索すると、自宅近くのゴルフ場の運営委員にその名があった。享年69歳。

⇒20日(日)朝・金沢の天気   くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆「漢字&カタカナ」仕事の名刺

2005年11月19日 | ⇒キャンパス見聞

  私の仕事もカタカナ職業の一つだ。しかも初めに4字の漢字がつき、合わせて12文字にもなる。名刺を交換すると、「地域連携コーディネーターってどのような仕事ですか」とよく問われる。当初、返答に窮した。なにしろ、金沢大学の制度としても新しく、手本となる先輩もいない。手探りの毎日である

   所属する金沢大学社会貢献室には3人の地域連携コーディネーターがいる。私は民間のテレビ局を途中退社した転職組、石川県庁OBで農業関連のスペシャリスト、そして県内の私学の理事が「出向」というかたちで派遣されている。この顔ぶれだけでも国立大学法人としては異色と映るだろう。

  では、具体的にどのような活動を行っているのかというと、大学の社会貢献の柱の一つ、「里山プロジェクト」をケースに紹介したい。このプロジェクトは、かつて金沢の里山でもあった角間キャンパス(201㌶)の一部を地域の人たちに開放し、社会教育や子どもたちの活動の場として使ってもらおうという事業だ。これまで650人余りが登録し、自然観察や農業体験、森林や竹林の整備、藍染などと幅広く活動を展開している。これらの活動を総称して「角間の里山自然学校」と呼んでいる。

  先日、ひきこもりの子どもたちをサポートしているNPOのスタッフが子どもたちを連れて里山自然学校にやってきた。「活動に参加させてほしい」という。子どもたちはコンピュータに興味があるというので、コンピュータ・グラフィックス(CG)でバッタのジャンプを再現している大学院生に頼んで研究室を案内してもらった。研究室から帰ってきて、寡黙だった子どもたちが少し話すようになっていた。11月初めにあった大学祭では、里山自然学校が出店するドングリを使った工作の店を手伝ってもらった。随分と忙しい思いをしたらしい。

   かつて金沢城内にあった金沢大学の教員や学生は旧制四高の時代からの気風を受け継ぎ、地域の人たちとよく交わった。それが平成に入り総合移転した。金沢大学がいち早く社会貢献室を組織して地域の人たちと接点を持とうとしているのは、疎遠になりがちな地域とのよき関係を続けたいとのアピールである。大学に対する地域のニーズは限りない。われわれコーディネーターはその「橋渡し」を担っている。ただしマニュアルはない。

   (※今回の「自在コラム」は週刊「教育資料」2005年11月14日号で掲載された記事に一部加筆して転載した)

  ⇒19日(土)朝・金沢の天気  くもり 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする