チンパンジーとオランウータンはどちらが賢いか。チンパンジーには枝を使ってシロアリを釣る、あるいは、石を使ってアブラヤシの堅い実を割るといった道具使用行動が見られるのに対し、オランウータンはおっとりしていてどちらかたというとチンパンジーの方が知能が高いように思われる。そこで、簡単な錠がかかった箱からバナナを、どちらが早く取り出すか実験が行われた。
チンパンジーは箱をゆすったり、錠をいじくったりするが、開かないので跳び上がったりしてにぎやかに試行錯誤を繰り返す。これに対し、オランウータンは最初ゆっくり近づき箱や錠をいじくるが、すぐに離れる。一見ボーッと座って関心がないように見えるが、そのうち急に体を起こして箱に近づき、確信に満ちた手つきで錠を開けてバナナを取り出す。結局、チンパンジーもオランウータンもバナナを取り出す所要時間はほぼ同じ。つまり、知能程度はそれほど変わらないのである。所作が違うだけだ。
上記のことは京都大学名誉教授で霊長類学者の河合雅雄氏が著した「子どもと自然」(岩波新書)の中で記されている。河合氏が言いたかったのは、実は人間にも2種類のタイプがあって、活発で積極的な子は評価されるが、ボーッとして懐疑的でスピード感がないオランウータンのタイプの子が損をするのがいまの日本の教育制度ではないのかと問題提起をしているのである。霊長類の進化をベースに、人間社会を照射する数々の洞察には心が打たれる。
先日、著者の河合氏を兵庫県の自宅に訪ねた。12月17日に朝日・大学パートナーズシンポジウム「人をつなぐ 未来をひらく 大学の森―里山を『いま』に生かす」に河合氏をお呼びする。その打ち合わせのためだ。河合氏は京都大学で「伝説の天才兄弟」と呼ばれた河合兄弟の兄、弟はいまの文化庁長官、隼雄氏である。実際に言葉を交わすと、頭脳明晰でアイデアが斬新、しかも20年前の数字、人名、理論もスラスラとよどみなく口から沸いてでてくる抜群の記憶力。天才とはこういう人のことをいうのだと、同行した大学教授(複数)が言う。どんな思索の空間があるのだろうかと、「河合先生、書斎を拝見させてくださいませんか・・・」と水を向けてみたが、「本が散らかっているから・・・」とこれは断られた。81歳。眼差しが優しい好々爺とした風貌である。
12月17日のシンポジウムでの河合氏の講演は龍谷大と金沢大どちらでも聴くことができる。講演タイトルは「森あそびのすすめ」。市民の参加は自由。
⇒15日(火)朝・金沢の天気 くもり