西宮で過ごした小学生時代の思い出。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
職員室の片隅――。
担任を通じて職員室への呼び出しを受けた私は、先ほどからずうっと、その先生から説得をされ続けている。
「お前なら、できる!」
「頼むから、やってくれ!」
「担任の先生には、許可をもらってあるんだ」
「挨拶するだけじゃないか!」
苦渋の表情で立ち尽くす私の前にあらゆる言葉が並べられ、懸命の反論も焼け石に水で、着実に退路は断たれていくのだった。
…というわけで。
学校行事として行われる音楽会(音楽発表会)において、「閉会の挨拶」を私がやることになった。
開会ではなくて、閉会の際の挨拶である。
6年生の二学期も終盤、11月下旬か12月上旬のことだったと思う。
小学校生活最後となる音楽会の、その最後を、私が締めくくるのだ。
私を呼び出したこの先生は、そうした学校行事での段取り・進行を一手に引き受けておられた方だった。日頃は、低学年教室のクラス担任を受け持っておられたが、私の中では『学校行事のとき舞台裏を走り回っていた先生』という印象のほうが断然強い。私は5年生のときに学級委員を務め、学校行事の舞台裏に関わったので、それ以来、この先生にも顔を覚えられていた。低学年児童への接し方は気持ち悪いぐらいに優しいのに、高学年児童に対しては鬼のように厳しい先生だった。
5年生で学級委員を務めたときに〝こき使われて〟懲りたので、私は6年生に進級した際には学級委員を辞退した。
6年生では「飼育委員」という委員会に所属し、校内にある鳥小屋(インコ・にわとり小屋)の掃除に精を出すのどかな日々を過ごしていたのに、それが今回、突然の呼び出しで事態が急変してしまった。
それにしても、「担任の先生には許可をもらってある」なんて、児童を相手に手回しが良すぎるではないか。
音楽会での「閉会の挨拶」である-。
挨拶の原稿は、この先生と一緒に考えた。
音楽会の当日は大勢の保護者が見学に来るので、それを踏まえた上で原稿をまとめる必要があった。会場に来てくれた保護者に向かっての挨拶である。
原稿用紙2枚分になったと記憶している。めちゃめちゃ長い文面ではなかったが、かといって、ひとこと ふたこと でパッと終わるような軽いものでもなかった。
挨拶の原稿が仕上がると、先生は、こうおっしゃった。
「それじゃあ…、この原稿を、当日までに覚えてきてね」
「ええっ! 覚えるのですか?」
「そう。全部暗記してちょうだい」
そんなの覚えなくても、当日は原稿を見ながら言えばいいのでは…? と私は訴えてみたが、先生は首を横に振った。
「アカンで。当日は、原稿を持たずに挨拶してもらうからな…」
原稿の暗記と、話し方の練習。
音楽会の当日まで、特訓が続くことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
職員室の片隅――。
担任を通じて職員室への呼び出しを受けた私は、先ほどからずうっと、その先生から説得をされ続けている。
「お前なら、できる!」
「頼むから、やってくれ!」
「担任の先生には、許可をもらってあるんだ」
「挨拶するだけじゃないか!」
苦渋の表情で立ち尽くす私の前にあらゆる言葉が並べられ、懸命の反論も焼け石に水で、着実に退路は断たれていくのだった。
…というわけで。
学校行事として行われる音楽会(音楽発表会)において、「閉会の挨拶」を私がやることになった。
開会ではなくて、閉会の際の挨拶である。
6年生の二学期も終盤、11月下旬か12月上旬のことだったと思う。
小学校生活最後となる音楽会の、その最後を、私が締めくくるのだ。
私を呼び出したこの先生は、そうした学校行事での段取り・進行を一手に引き受けておられた方だった。日頃は、低学年教室のクラス担任を受け持っておられたが、私の中では『学校行事のとき舞台裏を走り回っていた先生』という印象のほうが断然強い。私は5年生のときに学級委員を務め、学校行事の舞台裏に関わったので、それ以来、この先生にも顔を覚えられていた。低学年児童への接し方は気持ち悪いぐらいに優しいのに、高学年児童に対しては鬼のように厳しい先生だった。
5年生で学級委員を務めたときに〝こき使われて〟懲りたので、私は6年生に進級した際には学級委員を辞退した。
6年生では「飼育委員」という委員会に所属し、校内にある鳥小屋(インコ・にわとり小屋)の掃除に精を出すのどかな日々を過ごしていたのに、それが今回、突然の呼び出しで事態が急変してしまった。
それにしても、「担任の先生には許可をもらってある」なんて、児童を相手に手回しが良すぎるではないか。
音楽会での「閉会の挨拶」である-。
挨拶の原稿は、この先生と一緒に考えた。
音楽会の当日は大勢の保護者が見学に来るので、それを踏まえた上で原稿をまとめる必要があった。会場に来てくれた保護者に向かっての挨拶である。
原稿用紙2枚分になったと記憶している。めちゃめちゃ長い文面ではなかったが、かといって、ひとこと ふたこと でパッと終わるような軽いものでもなかった。
挨拶の原稿が仕上がると、先生は、こうおっしゃった。
「それじゃあ…、この原稿を、当日までに覚えてきてね」
「ええっ! 覚えるのですか?」
「そう。全部暗記してちょうだい」
そんなの覚えなくても、当日は原稿を見ながら言えばいいのでは…? と私は訴えてみたが、先生は首を横に振った。
「アカンで。当日は、原稿を持たずに挨拶してもらうからな…」
原稿の暗記と、話し方の練習。
音楽会の当日まで、特訓が続くことになった。